東シナ海を挟んだ日中文化交流2008年06月01日

 しばらく前に、加藤徹「社会階層から見た日中文化交流 漢文派と唐話派」を読んだ。とても示唆的な内容だったので、読書日記として感想を残しておこうと思う。

 加藤徹「社会階層から見た日中文化交流 漢文派と唐話派」東シナ海を挟んだ日本と中国の交流の特殊性が産んだ士人ルートと商人ルートの文化交流の構造を、史料によって読み解いたとても興味深い論文である。

 まず、面白いのは日中の間を隔てる東シナ海の歴史的な役割の捉え方である。東シナ海の最高4ノットの強力な黒潮は、海域交流の壁となり、同時に対岸からの奇襲上陸の防御壁ともなっていたこと、近世東アジア諸国の「海禁」という世界史上珍しい管理貿易政策を可能にした論者は述べる。そしてこの文章の主軸でもある社会階層別の文化伝播のルートの存在を具体例で浮き彫りにしてくれるのである。それが、『明史』の、豊臣秀吉についての記述に「阿奇支」「明智」という二種類の明智光秀が登場するという論証である。論者によれば、前者は商人ルートによる「唐話(中国語会話)などによる情報、後者は士人ルートによる漢文の筆談や書籍など文字による情報であり、『明史』では二つの情報を合わせてねじれた事実認識をしてしまった、ということらしい。こういうことがあるのだ~、とただただ感心してしまった。他にもいろいろな興味深い例証があって、考えさせられるところが多かった。しかも士人ルート、商人ルート、移民ルートの三つのチャンネルは形を変えて今も生きているというから、すごい。

 史料として残るのは、どうしても、士人ルートの情報が多いから、なかなか商人、移民ルートまでは目が届きにくいし、調査研究の方法も難しい。この論文は、とても示唆的で、今まで茫然と疑問に感じていた部分を解き明かしてくれたようで、とってもすっきりした。論者に感謝したい気分である。

参考:加藤徹「社会階層から見た日中文化交流 漢文派と唐話派」『大航海』No.66

コメント

_ 加藤徹と申します ― 2010年07月24日 09時05分21秒

 初めまして、加藤徹と申します。拙論をおとりあげくださり、ありがとうございます。
 授業の教材用に作った
http://www.geocities.jp/cato1963/hideyoshi.html
の末尾より、こちらのブログにリンクをはらせていただきました。
 事後承諾で恐縮ですが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

_ ゆうみ→加藤徹さん ― 2010年08月04日 10時03分59秒

こちらこそ、わざわざご連絡ありがとうございます。
リンクをはっていただいたHPの記事も早速拝見しました。「明史・日本伝・豊臣秀吉の条」大変面白いですね。他の記事も勉強になります。
加藤さんの論点はとても興味深く、これからも機会があれば、論文等拝読させていただきたいと思っています。

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