中国教科書のもう一つの顔2008年06月20日

「我的家」と「家」
 先に紹介した北京師範大学出版社の義務教育課程標準実験教科書「語文」一年級上冊(2006年6月出版)、この語文(日本の国語科にあたる)教科書収録の暗記教材を検討すると、もう一つの役割があるようだ。これを紹介しないのは片手落ちというものだろう。その役割とは分かりやすい詩句で、国の政策を学ばせ、身につけさせることにある。

例えば、「家」という詩がある。

「家」
藍天是白雲的家。
樹林是小鳥的家。
小河是魚兒的家。
泥土是種子的家。
我們是祖国的花朵,
祖国就是我們的家。

大意は「青い空は白い雲の家。木の林は小鳥の家。小川はお魚の家。泥と土は種の家。私たちは祖国の花びら、祖国こそは私たちの家。」。この詩のページには最上部には国旗が描かれて、大地を覆っている。更に、前ページに「我的家(私の家)」という詩があり、これとさりげなく呼応している。大意は「私には幸せな家がある。パパは私を愛しているし、ママも私を愛していて、私もパパとママを愛している。温かい家で私は健やかに成長する。」。この詩で「私の家は温かい家」というイメージを創ったところで、「私たちの家は祖国」であるという詩を暗唱させることで、「家」では国の素晴らしさを特に述べているわけではないのに、国に温かいイメージが添えられる。これはいわば愛国教育を目的とした教材である。

次に「みんなで普通語を話そう」という詩。

「大家都說普通話」
風有風的話,
鳥有鳥的話,
有的像唱歌,
有的像吵架,
說話不能猜謎語,
大家都說普通話。

大意は「風には風の、鳥には鳥の言葉があり、あるものは歌を唄っているようで、あるものは喧嘩をしているようだ。言葉を話すのは謎々のようではいけない、みんなで普通話を話そう」。「普通話」とはいわゆる中国語、「北京語音を標準音に、北方話を基礎方言とし、典型的な白話文の著作を文法規範とする」北京官話ともいわれる共通語のことで、日本語の標準語にあたる言葉である。この教材を暗記させる目的は普通話の大切さを小学生に認識させ、小学生の普通話運用の認識を高めることにある。

もう一つ紹介したいのが、「兩件宝(二つの宝)」という詩。

「兩件宝」
人有兩件宝,
双手和大腦。
双手会做工,
大脳会思考。
用手又用脳,
才能有創造。
一切創造靠労動,
労動要靠手和脳。


大意は「人には二つの宝がある、二本の手と大脳である。二本の手は作業することができ、大脳は思考することが出来る。手と脳を使ってこそ創造ができる。全ての創造は労働に頼らなくてはならず、労働は手と脳に頼らなくてはならない」簡単な言葉で、手と脳が創造と労働に果たす役割と重要性を述べている。これは中華民国時代の教育家として著名な陶行知(1891-1946)の詩であるけれども、現在の中国教育が提唱している「素質教育」にぴったりの教材である。この教材の後には、イソップ寓話「カラス水を飲む」が採録され、頭を使うことや工夫の大切さを重ねて教えている。

 以上のように、中国では小学校一年生の教科書にも国の政策に沿った教材が収録され、教えられている。もっとも、愛国教育という視点から見れば、現行の教科書はテキストの語調がずいぶん穏やかになったし、愛国教育教材の数も少なくなったように感じられる。