『中国歴史教科書と東アジア歴史対話』を読む1――日中韓3国共通歴史教材委員会による『未来をひらく歴史』作成の経緯2008年10月27日

齋藤一晴『中国歴史教科書と東アジア歴史対話』(花伝社)読んでます
 先日ヨーロッパにおける歴史教科書対話について書いた『国際歴史教科書対話』を読んで得るものが多かったので、今度は『中国歴史教科書と東アジア歴史対話』を読んでみた。こちらは2002年春から2005年春にかけて日本・中国・韓国の研究者や教師らによって共同編集され、2005年に出版された日中韓共同編集の東アジアの近現代史歴史教材『未来をひらく歴史』の作成経緯(作成方針、作成メンバー、作成経緯と問題設定、作成過程の議論)、刊行後の反応、中国の歴史教科書の近年における変化を紹介したものである。興味を持った部分について覚え書きを残しておくことにする。

 まず、大事なのはメンバー構成だろう。同書の解説を読みつつ「日中韓各国の執筆・編集メンバー一覧」(24,25頁)を見ると、それぞれの国の事情が反映されていることがわかる。日本のメンバーは「子どもと教科書全国ネット21」「歴史教育アジアネットワークJAPAN」等の市民組織が、韓国のメンバーは韓国挺身隊問題対策協議会など「慰安婦」問題の運動に主体的に取り組んできた高校と大学の教員が、中国のメンバーは社会科学研究院、上海師範大学を主とした抗日戦争と南京大虐殺の歴史学者がメンバーである。市民組織が基盤の日本、慰安婦問題の運動組織を基盤とする韓国、国家組織が基盤の中国、という違いはやはり気になるところである。けれど、少数ながら、歴史教科書執筆者は含まれているのは重要である。かつてのヨーロッパにおける教科書対話では、教科書執筆者が対話に参加することが、後の教科書の記述に大きな影響を及ぼしているからである。ちなみに、中国のメンバーには、先日紹介した上海版歴史教科書の主編・蘇智良の名も見える。『未来をひらく歴史』の編集時期は上海版歴史教科書の編集時期と重なるのであり、影響があったことを本書は指摘している。(51頁)できれば、上海版歴史教科書の原本を見て確認してみたいものである。

 次に私が興味を持っていたのは、この教科書がなぜ近現代史に限られたかということだ。本書によれば、「韓国側からは、中国とのいわゆる高句麗問題を念頭に古代史を含む通史の共通教材作成が提案されたこともあったが、にほんの侵略戦争をめぐる歴史事実を三国で共有する、という目的にそって今回は見送られた。」(28頁)とある。即ち、日中韓のメンバーに共通するのは、東アジアの歴史教科書の近現代史記述に対する問題意識であって、それが、この教科書の記述範囲を近現代に限定させたと見て良いだろう。

 最も興味深い作成過程の議論については、長くなるので次回に(^^)

読んでいる本:齋藤一晴『中国歴史教科書と東アジア歴史対話』(花伝社、2008年7月)
日中韓3国共通歴史教材委員会 日本・中国・韓国=共同編集『未来をひらく歴史―東アジア3国の近現代史』(高文研、2005年5月)

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