工藤美代子『ラフカディオ・ハーンの生涯』3部作を読む2009年02月19日

 先日母が送ってくれた、ノンフィクション作家・工藤美代子氏のラフカディオ・ハーン=小泉八雲の評伝三部作『夢の途上-ラフカディオ・ハーンの生涯(アメリカ編)』『聖霊の島-ラフカディオ・ハーンの生涯(ヨーロッパ編)』『神々の国-ラフカディオ・ハーンの生涯(日本編)』、ようやく読み終わった。この本を読んで、ラフカディオ・ハーン=小泉八雲が非常に個性的な人物であり、その人生が実に波瀾万丈だったことを知った。

 一巻目のアメリカ編はラフカディオ・ハーンの青年期とその心の恋人と思われるエリザベス・ビスランドを追い求める旅である。単身の渡米、貧困の中での最初の結婚と破局、ジャーナリストとしての成功、彼の伝記を後に出版することとなるエリザベス・ビスランドとの出会いと関わり…著者の興味の中心はラフカディオと親しかった女性、エリザベス・ビスランドである。ビスランドはアメリカの女性ジャーナリストとしては先駆的な存在で、ラフカディオ・ハーンとも駆け出しの頃から面識があった。彼の死後は伝記と書簡集を出版し印税を全て遺族に贈って生活を援助している。ところが、ビスランドは、伝記と書簡集に収められたラフカディオ・ハーンのビスランド宛の手紙にある操作、編集を行った。つまり、ビスランドに対するハーンの恋愛感情ともとれる表現を全て消してしまった。それはなぜなのか、疑問に思った著者は、ビスランドゆかりの地を訪ねる旅に出る。各地で関係者の子孫や研究者を訪ね、図書館で史料を調査して、ビスランドの人間像や価値観、ラフカディオ・ハーンとの関わりを明らかにしていく。著者の大変な行動力と、史料を読み解く知性の高さには感服させられる。

 二巻目のヨーロッパ編は、著者がギリシャとアイルランドへと赴き、ラフカディオ・ハーンの幼少期、少年期、彼の両親の出会いから破局までの経緯を追っていく。ただ、ラフカディオ・ハーンの両親について分からないことが多く、また母親が晩年を精神病院で過ごしたこともあって、著者の責任ではなく、手がかりがあまりにも少ないために、他の巻と比べ、精彩に欠いている。それでも、ラフカディオ・ハーンという人物の心の闇を知る為には、この巻はやはり必要だったのだろう。

 三巻目の日本編はラフカディオ・ハーンが日本を訪れてから逝去するまでを追っている。そこからは彼の外国人教師としての生活、作家としての創作活動、妻・セツとの結婚と家庭生活が描かれている。日本人の妻・セツと築いた家庭を大切にするラフカディオ・ハーンは好ましかったし、明治日本における欧米人、欧米に紹介された日本像の片鱗を見ることが出来たのも良かった。そして最近の私が勉強している明治日本の教育界とも微妙ながら繋がったのが何よりありがたかった。明治の日本の帝国大学におけるお雇い外国人講師について、認識を深めることが出来た。

 全編を通して、著者自らラフカディオ・ハーンゆかりの地を訪ね歩き、様々な史料を駆使しながら、ラフカディオ・ハーンの人生や人物像を解き明かしていくのは、その人生を追体験するようで、とても面白かった。また、著者がラフカディオ・ハーンの身内や友人、研究者の証言や著作については、客観的で公平な評価を与えようとしていたのには好感をもった。ただ、第三巻に描かれる、明治の日本に対する印象は、私が持っているイメージとは差異があり、違和感が残った。明治日本とはそんなに良き時代だったのか、という部分である。もちろん、私自身、小泉八雲については作品を少し読んだことがある程度で、ラフカディオ・ハーン=小泉八雲研究については全く無知な上、明治の日本についても専門家ではないから、正しい評価は出来ないのだが。 少なくとも、今後、小泉八雲の名前と作品を見たら、今までとは違う眼で、読むことになるだろう。

読んだ本:工藤美代子『夢の途上-ラフカディオ・ハーンの生涯(アメリカ編)』(ランダムハウス講談社、2008)
工藤美代子『聖霊の島-ラフカディオ・ハーンの生涯(ヨーロッパ編)』(ランダムハウス講談社、2008)
工藤美代子『神々の国-ラフカディオ・ハーンの生涯(日本編)』(ランダムハウス講談社、2008)

↓応援クリックお願いします(^^)

にほんブログ村 教育ブログへ