『蟹工船』ブームに思う2009年03月07日

 『蟹工船』ブームが、現代の労働事情を象徴する現象として取り上げられ、度々報じられている。小林多喜二の『蟹工船』が雑誌『戦旗』に発表されたのは1929年。80年後のいまプロレタリア文学である『蟹工船』が若い世代に共感をもって読まれているのは、とても興味深い現象である。

 この『蟹工船』ブーム、きっかけとなったのは、毎日新聞に掲載された作家の高橋源一郎さんと雨宮処凛さんの格差社会をめぐる対談(1月9日付朝刊)であったらしい。でも、そのブームを支えたのは、白樺文学館であろう。白樺文学館は、2006年には中国における小林多喜二研究の振興・奨励するため河北大学と共催で論文コンテストを行い、日本では『マンガ蟹工船』を発行、2007年には小樽商科大学と共催で「『蟹工船』エッセーコンテスト」を行い、更にその結果をもとに『私たちはいかに蟹工船を読んだか―小林多喜二「蟹工船」エッセーコンテスト入賞作品集』を発行するなど、積極的な普及活動を続けている。時代を読み、次から次へと新しい手を打つ、白樺文学館の戦略(?)が当たったようにも見える。

 ところで、「『蟹工船』エッセーコンテスト」には、中国人2名も入賞している。実は、日本では長らく忘れられていた『蟹工船』、中国ではよく知られている日本の小説のひとつだ。小林多喜二『蟹工船』を中国で積極的に評価した人物に中国の著名な作家・夏衍がいる。『蟹工船』が出版されてまもなく、1930年1月に左翼連盟の機関紙『拓荒者』創刊号に「『蟹工船』について」(このとき夏衍は若泌という筆名を使った)という評論を書いて「蟹工船」を絶賛した。「蟹工船」は、1956年の初等中学の国語教科書『文学』にも収録されている。抗日色が強い初期の中国の教科書では特例的だったと思う。

 いまの「蟹工船」ブームはとかく現在の社会状況に重ねて情緒的に語られるが、かつての貧困と今の貧困ではレベルが違うような気もする。今後も冷静にこの現象を見まもっていきたい。

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