五四新文化運動を契機とした『婦女雑誌』の変貌2009年03月25日

 五四新文化運動を契機として、中国における女性論は、日本の影響を受けた「良妻賢母」や維新派の「不纏足」から、西欧的な女性解放思想へと、大きな変貌を遂げる。それは徐々に変化したのではなく、突然の変貌だった。その背景を陳[女正]湲『東アジアの「良妻賢母論」』は『婦女雑誌』の五四前後の変貌の経緯を分析することで、論証している。以下簡単にまとめておく。

 商務印書館の社長・張元済は同社を五四新文化運動という新しい潮流に対応させる為に、人材を刷新した。『婦女雑誌』も創刊6年目にして新しい編集長・章錫?を迎えることになる。

 ところで、この章錫?、商務印書館で『東方雑誌』の日文中訳の翻訳業務に10年近く従事、先進諸国の新思潮を紹介出来る「新知識と新学問」をもち「最もモダン」でなければならないという、張元済の人選基準を満たしてはいたが、女性問題に関わったことは全くなかった。章にとってこの編集長職は、経営側の決定に従ってやむなく引き受けた職務であり、また共同編集者として編集に加わった周建人(作家・魯迅の末弟)も女性問題には門外漢であった。

 女性問題に対する見識が全くない章錫?と周建人は、最初の内は「婦女問題や恋愛自由といったモダンな短文をでっち上げたり」して誌面を埋め、無事に発行出来ることだけを願っていたようである。それが、「三ヶ月もすぎれば、各号が時間通りに刊行できる」ようになり、半年もしないうちに「かつて批判的な眼差しを向けていた新文化運動陣営から[中国女性問題に関するもっとも権威のある出版物]という賛辞を得られるほど、『婦女雑誌』を変身させることが出来た」のであった。

 この劇的な変身の理由、それは『婦女雑誌』編集者が編集作業を通して、真に女性問題に目覚めたことにある。中でも編集長・章錫?は「進んで女性問題に関する本を翻訳して出版するほど」であって、『婦女雑誌』責任者の名にふさわしく女性問題の権威として一躍浮上した。そればかりか、編訳書内の青年知識人達も「本格的に婦女問題を探究するために[婦女問題研究会]という同人組織を発足させたほど、認識を共にしていた」という。また編集者は頻繁に投稿特集を組み、積極的に読者を討論の場に招きこんでいる。

 『婦女雑誌』の女性論は、「清末ナショナリズムのもとで内在的に始められていた纏足禁止論や女性教育論ではない。近代西欧思想に傾倒する青年知識人に率いられるまま、『婦女雑誌』の女性論はエレン・ケイやベーベル、そしてイプセンなど、欧米先進諸国における女性論を新たな根拠にして展開されてしまう」のである。著者は「五四新文化運動の婦女解放論の内容が清末の議論とは断絶されたまま、近代西欧の女性論に急転していった背景」をその陣地となった『婦女雑誌』をめぐる歴史的文脈にあると見ている。

 こうして『婦女雑誌』は「女性の地位向上および家庭改革」を訴える進歩的メディアへと変貌を遂げたのである。

 この論文のおかげで、五四新文化運動前後の変化の一端を見ることが出来、理解が深まった。著者の方に感謝である。

参考:陳[女正]湲『東アジアの「良妻賢母論」』(勁草書房、2006)

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コメント

_ (未記入) ― 2009年04月30日 11時41分52秒

上村さん:
こんにちは。
突然なことで恐縮でございますが、わたしは、中国のshowchinaというネットのエディタです。showchinaは日本人向きのネットで、主に中国の文化、観光情報などを日本人に紹介しております。このごろ、「五四」を記念するため、うちのネットは五四特集を作っております。上村さんのこの文章は五四特集にふさわしいし、内容もたいへん有意義で、本当に感心しました。この五四特集は今日に完成されなければならないので、上村さんの返事を待つのはちょっと待ちあわない恐れがありますので、いまは上村さんの同意をもらえずにご引用させていただきます。本当に申し訳ありません。もし後で上村さんにだめといわれたら、うちのネットは必ず一刻も早くこの記事を削除させていただきます。以下はうちのネットのアドレス:http://jp.showchina.org/
ご多忙中恐縮でございますが、ご返事いただければ、幸いです。
よろしくお願いいたします。
 張 亭然

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