『ヘレン・ケラーはどう教育されたか ――サリバン先生の記録――』を読む2009年06月26日

『ヘレン・ケラーはどう教育されたか ――サリバン先生の記録――』(明治図書出版、1973)
 娘に「目の見えない人は自分の顔も見たこと無いんだよね?」と聞かれて、思い出したのが、アン・サリバン先生とヘレン・ケラーの半生を舞台化した『奇跡の人』である。ヘレン・ケラーが、顔を触って顔の造作を覚えたり、表情を読み取ったりしていたのを、思い出しながら、顔は見ることはできなくても、きっと自分の顔のことは一番よくわかっていただろうと話した。ついでに、「奇跡の人」ヘレン・ケラーが最初に物に名前があることに気がついた、井戸のポンプから流れる水に触れて、「Water」と声を上げる感動的な場面のことも説明した。
 
 その後気になってヘレン・ケラーについて調べた。二つのことを長年勘違いしていたことに今頃気がついた。一つ目は、「奇跡の人」が実はアン・サリバン先生を指すということである。なるほど、原題は“The Miracle Worker”、英語で聞けば間違えることはないが、日本語の方だけを聞いてヘレン・ケラーだと思っていた。もう一つは舞台最後の感動的な場面の重要な部分に、舞台の演出上の創作があったということだ。つまり「Water」のエピソードそのものは事実だが声は出さなかった。視覚と聴覚を失う前に「Water」という言葉を覚えていたことは本当だ。また、井戸の水を触りながら指文字を綴られるなかでヘレンが物に名前があることに気がつき、7歳前のこの出来事以来、多くの物や動作の名前を覚え、アン・サリバンと心を通わせるようになったのも本当のことである。演出家は、この二つの事実を組み合わせて、より感動的な場面を作り上げたのだ。知っているつもりのことでも、意外に間違っていたり、脚色されたのを気がつかなかったりしているものだ。
 
 その探索の過程で、興味深い本を見つけた。『ヘレン・ケラーはどう教育されたか ――サリバン先生の記録――』である。『ヘレン・ケラーはどう教育されたか ――サリバン先生の記録――』にはアン・サリバンの手紙が多く掲載されている。アン・サリバンが、ヘレンと朝から晩までほぼ一日中密着して生活していたこと、その生活の中でヘレンの好奇心、知識欲の種を、上手にすくい取り、大事に育てた過程が、如実にわかる。日々行われた様々な試行錯誤、葛藤の上に築かれた二人の関係、二人の深い絆が、彼女の筆を通じて伝わってくる。これを読んで、アン・サリバンの深い愛情こそがヘレンを救い、ヘレンの中の愛を目覚めさせ、そして育てたのだと、改めて実感した。彼女がヘレンと乗り越えたものは、障害児ゆえの問題もあるが、大部分は子育てをする母親と同じであるようにも思う。この記録には子育ての多くのヒントが詰まっているように感じた。
 
読んだ本:アン・サリバン・著、槇恭子・訳『ヘレン・ケラーはどう教育されたか ――サリバン先生の記録――』(明治図書出版、1973)
 
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