台湾に友好的な教材の出現――中国の国語教科書2012年10月13日

 中国の国語教科書に近年、台湾に友好的な教材が収録されるようになった。現行の人民教育出版社版の教科書では「雪を見る」(二年級・上冊)、「海峡を越えた生命の橋」(四年級・上冊)、「忘れられない授業」(五年級・上冊)などがそれに当たる。これは大きな変化である。胡錦濤国家主席の中台平和統一路線を反映している、と考えられる。

 

 では収録されているのはどんな教材か、この中から小学校二年生向けの教材「雪を見る」を紹介しよう。こんなお話しである。台湾の子供が商店に飾られていた雪の風景を見て、先生に「先生はホンモノの雪を見たことはありますか」と尋ねる。先生は「子供の頃、ふるさとでね。」と地図で北京を指さして答える。「北京はここから遠いでしょう?」と子供が聞くと、「そんなに遠くないわよ。」と、子供の頃、雪で遊んだ様子を語って聞かせる。雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり…子供達が「いつ私達を北京に連れて行って本当の雪を見せてくれるんですか?」尋ねると、先生は「あちらの子供達もあなた達と一緒に遊ぶのをとても楽しみにしているのよ。」と答える。

 

 この作品、一見すると、台湾の子供達が北京の雪景色に思いを馳せる、という心温まる話である。これを読んだ中国の子供達は台湾の子供達と雪で遊ぶ様子を想像して、親しみを持つだろう。また、先生が北京出身であることから、教室で中国と台湾の関係を学ぶ機会ともなり、そして台湾の人々がこの先生のように統一を願っている、と子供達は自然に信じるだろう。こういう教材を低学年に持ってきて、台湾への親近感を醸成している、と見ることが出来るだろう。

 

この教材は政治的な部分を上手く包んで、子供達の興味を引いているが、隠すのに苦労している部分もあるようだ。例えば、先生の台詞には「北京」という言葉がなく、地図で北京の場所を示すという行為に置き換えられている。これは台湾では正式には今でも北京は「北平」、首都は南京のままだからであろう。他にも、近年の教科書の欄外には大抵作品の出典が書かれるのだが、この作品には書かれていないのが気になる。ついでにいえば、北京の冬、雪はあまり降らない。滅多に積雪もない。何年ぶりかの大雪で二、三十センチ積もっても、雪はサラサラのパウダースノーで雪だるまなんてつくるのはとっても大変で、雪玉もすぐ崩れるから雪合戦も難しいと思う。従ってイラストのような雪遊びは、ほとんど見られない。こうして見ると、この先生、北京出身というには少々無理がある。恐らく…台湾人が「本当の雪を見てみたい」というのを聞いて、それをヒントに、北京をよく知らない作者が書いたのだろう。いずれにしても、慌てて作った教材という感じは否めない。(20121015日改訂)

看雪_人教版