台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(5) ― 2014年03月15日
さて、しばらく風邪で伏せっていて、少々間が空いてしまった。(ごめんなさい。)でもこのタイムラグが意外な発見につながった。それというのも、綱要「微調整」問題は、台湾で未だホットな話題で有り続けているのである。
つい先日、3月9日の『聯合報』の記事「歷史學者連署 教育部重申合法」は、歴史学者等が記者会見を開き、中央研究院や台湾大学等を含む台湾史や歴史学者等120名以上の連名(翌日の3月10日の自由時報「140學者連署 促撤黑箱課綱」では140名以上)で「学術的内容に添わない課綱微調整に反対する」声明を発表した事実を伝えている。しかも、このたびの綱要「微調整」を主導した王暁波の無神経で最悪な一言が更に騒ぎを大きくしている。(←これは別の機会に書きますね)というわけで、続きを。
『聯合報』のサイトをGoogleで「課綱調整」を検索すると、2月13日にはで73件、3月13日には93件ヒットした。先に説明したように『聯合報』の読者層はブルー陣営なので、社説を読むと一貫して綱要「微調整」擁護の立場で論を展開している。例えば、2月7日の社説「民進黨從「本土化」躍向「擁殖民」?」(民進党は「本土化」から「植民地擁護」に向かっている?)は綱要「微調整」を「教科書における日本植民地時代の過度な美化を修正するもの」と擁護し民進党を「植民地を擁護するもの」として貶しているし、2月11日の社説「日本的虐待史觀與民進黨的自虐史觀」では「教育部は日本植民地時期の用語を調整することで台湾の主体性を高めた:修正した主なものは『日本色を払拭(原文:去日本化)』であるが、民進党はこれを『台湾色を払拭(原文:去台湾化)』したと批判している」として民進党の「勘違い」を痛烈に批判している。
しかし、掲載されているその他の記事を見れば、『聯合報』も必ずしも綱要「微調整」擁護一辺倒ではないことに気づく。例えば「小野:微調沒對錯 但應公開討論」では作家・小野の意見「(微調整の内容が)正しいか間違っているかではなく、公開の場の議論不足こそが問題である」を紹介し、成功大学教授・林瑞明の「民国百年に施行された綱要は皆の討論を経て作成されたもので、今回の微調整を主導した王暁波も審査に関わったのに、なぜ今頃になって皆で議論し妥協した綱要をひっくり返すマネをするのだ」という非常に冷静でもっともな意見を載せている。また、「課綱微調會議資料 蔣偉寧:依法不公開」では教育部長が法律を盾にとって綱要「微調整」を決めた会議の録音資料の公開を拒んでいる件などを記事にもしている。
私が関連記事に目を通した限りでは、『聯合報』は「微調整」の強引なやり方について問題視している様子が感じられる。また記事全体としては「微調整」の変更内容を擁護する姿勢は示しつつも、民進党の主張や教育界の動き、民間の反応という形で、変更内容の不備も十分に伝えている。実に興味深い。
台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(6)-王暁波の「小case」発言 ― 2014年03月18日
綱要「微調整」問題は、一月末から民進党が合法性と変更内容について批判して、学術界、特に歴史学者は学術研究無視の「微調整」に猛反発、一方で教育部は合法性と正当性を主張し続け、国民党が擁護の姿勢、という両党のにらみ合いの中で推移している。でも二月下旬あたりには記事も減って、ちょっと熱も冷めてきたかな~と思っていた。
ところが、綱要「微調整」を主導したとされる世新大学教授・王暁波が二二八事件関連イベントの席上、二二八事件の被害者2万人を「小case」(些細な出来事)扱いした発言をして、『自由時報』3月1日の記事に「課綱召集人王曉波:228殺2萬人小case」と採り上げられ波紋が広がった。記事の該当部分を訳しておこう。
世新大学中文系教授王暁波は昨日、蒋介石が反対派を殺すのは台湾に始まったことでは無い。大陸における「清党」で40万人以上の反対派を殺している;国民党が台湾の二二八事件で殺したのは2万人に過ぎず、両者を比べれば二二八事件の被害者数は「些細なこと(原文:「小case」)」に過ぎない!
王暁波は後に釈明したが、時すでに遅し、こんな考え方の人間に歴史教科書が「微調整」されるなどあってはならない、と大反発を引き起こし、綱要「微調整」はまたもやホットな話題に返り咲いた。
娘の卒業式 ― 2014年03月20日
学生による台湾立法院占拠に思う ― 2014年03月23日
台湾の立法院(日本の国会にあたる)が学生により占拠されて6日目になる。今日午前10時、ようやく馬総統が記者会見を開いた。でも、残念ながら、馬英九総統の回答は「サービス貿易協定は害より利益が大きい」「サービス貿易協定と自由貿易協定を進めるのは、国民がビジネスをしやすくするため、台湾の競争力を高めるため」「学生たちが違法に国会を占拠し、5日間も国会を麻痺させた行為は民主的ではない。」といった問題の本質を無視した内容であった。
これでは学生達が納得できなかったのも無理は無い。学生のコメントを見たらそれが分かる。「政令宣導 罔顧民意 既不民主 又無法治 先有條例 再來審議 給我民主 其餘免談」(法令を押しつけ、民意を無視するのは、民主的な行為でも法治でもない。まずは条例を成立させ、審議を行うべきだ。民主を返せ、それ以外の話しはしたくない)学生達は、民主的なプロセスを無視するな、と訴えているのに、馬英九総統の回答はそれに全く答えていないのである。
これは先日の綱要「微調整」問題にもつながる。民主的な手続きを無視して、密室で勝手に決めてしまう手法が同じだ。もちろん学生達が採った立法院占拠という行動の正当性は別の問題としてあるが、馬政権のやり方が民主的でなく強引なのは明らかだろう。いま台湾の民主は危機に瀕している。民主が危機に瀕しているのは日本にも言えること、だからこそ、台湾の学生達による台湾の民主を守る闘いの今後の推移に注目したい。
参考:聯合報(中国語) http://udn.com/NEWS/NATIONAL/NAT4/8566000.shtml
自由時報(中国語) http://iservice.libertytimes.com.tw/2013/specials/stp/news.php?rno=4&type=l&no=973652
学生による台湾行政院占拠、強制排除で幕!? ― 2014年03月24日
昨晩から今朝にかけて台湾ではとんでもないことが起きていた。
聯合報の記事「佔領行政院全紀錄 警力7小時淨空院區」によれば、昨晩(3月23日)19時頃、台湾では市民と学生が行政院(日本の内閣に当たる)を占拠したことから、ついに強制排除命令が出て、千人以上の鎮圧部隊(警察?)が集結、午後10時半頃から強制排除に乗り出した。
行政院にいた大学生等は多くが現行犯逮捕されたらしい。鎮圧部隊は日付がかわった0時25分には北平東路側で外に座り込みしていた学生や民衆を強制的に追い払い、道路を封鎖の上、2時ごろから大々的に院内の排除活動を開始、4時15分には頑強に動こうとしなかったグループに対して放水車を使用して高圧で放水したという。(但しタイヤをパンクさせられるなど、警察側も民衆の頑強な抵抗に遭ったらしい。)中山北路と北平東路では警察と民衆の衝突もあったようだ。7時間をかけての強制排除では、双方にけが人も出ている。
今後どうなるのか。なにしろ情況の詳細がわからないから、とにかく心配である。なお、立法院占拠はまだ続いている。(2014年3月25日タイトル修正。誤解を招くというご指摘をいただき修正しました)
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