立法院院長の知恵-台湾の学生による立法院占拠21日目2014年04月07日

  台湾の学生による立法院占拠、もう21日にもなるんですね。学生側も政府側も次の打つ手を決めかねていたところ、その状況を打破する動きになるかもしれない動きがありました。立法院の院長・王金平が昨日発表した声明です。その中には「両岸協議監督条例が立法化されるまでは、サービス貿易協定の如何なる協議も行わない」という一文があります。台湾の老政治家・王金平の知恵が台湾の未来に資する形でこの膠着状態の平和的解消に結びついてくれるといいなと思います。

 

参考:台湾立法院長・王金平の声明全文(中文)

http://www.cna.com.tw/news/firstnews/201404060077-1.aspx



学生による台湾行政院占拠、強制排除で幕!?2014年03月24日

 昨晩から今朝にかけて台湾ではとんでもないことが起きていた。

聯合報の記事「佔領行政院全紀錄 警力7小時淨空院區」によれば、昨晩(3月23日)19時頃、台湾では市民と学生が行政院(日本の内閣に当たる)を占拠したことから、ついに強制排除命令が出て、千人以上の鎮圧部隊(警察?)が集結、午後10時半頃から強制排除に乗り出した。

行政院にいた大学生等は多くが現行犯逮捕されたらしい。鎮圧部隊は日付がかわった0時25分には北平東路側で外に座り込みしていた学生や民衆を強制的に追い払い、道路を封鎖の上、2時ごろから大々的に院内の排除活動を開始、4時15分には頑強に動こうとしなかったグループに対して放水車を使用して高圧で放水したという。(但しタイヤをパンクさせられるなど、警察側も民衆の頑強な抵抗に遭ったらしい。)中山北路と北平東路では警察と民衆の衝突もあったようだ。7時間をかけての強制排除では、双方にけが人も出ている。

今後どうなるのか。なにしろ情況の詳細がわからないから、とにかく心配である。なお、立法院占拠はまだ続いている。(2014年3月25日タイトル修正。誤解を招くというご指摘をいただき修正しました)


学生による台湾立法院占拠に思う2014年03月23日

 台湾の立法院(日本の国会にあたる)が学生により占拠されて6日目になる。今日午前10時、ようやく馬総統が記者会見を開いた。でも、残念ながら、馬英九総統の回答は「サービス貿易協定は害より利益が大きい」「サービス貿易協定と自由貿易協定を進めるのは、国民がビジネスをしやすくするため、台湾の競争力を高めるため」「学生たちが違法に国会を占拠し、5日間も国会を麻痺させた行為は民主的ではない。」といった問題の本質を無視した内容であった。

これでは学生達が納得できなかったのも無理は無い。学生のコメントを見たらそれが分かる。「政令宣導 罔顧民意 既不民主 又無法治 先有條例 再來審議 給我民主 其餘免談」(法令を押しつけ、民意を無視するのは、民主的な行為でも法治でもない。まずは条例を成立させ、審議を行うべきだ。民主を返せ、それ以外の話しはしたくない)学生達は、民主的なプロセスを無視するな、と訴えているのに、馬英九総統の回答はそれに全く答えていないのである。

これは先日の綱要「微調整」問題にもつながる。民主的な手続きを無視して、密室で勝手に決めてしまう手法が同じだ。もちろん学生達が採った立法院占拠という行動の正当性は別の問題としてあるが、馬政権のやり方が民主的でなく強引なのは明らかだろう。いま台湾の民主は危機に瀕している。民主が危機に瀕しているのは日本にも言えること、だからこそ、台湾の学生達による台湾の民主を守る闘いの今後の推移に注目したい。

 

参考:聯合報(中国語) http://udn.com/NEWS/NATIONAL/NAT4/8566000.shtml

自由時報(中国語) http://iservice.libertytimes.com.tw/2013/specials/stp/news.php?rno=4&type=l&no=973652




娘の卒業式2014年03月20日

今日は娘の小学校の卒業式でした。冷たい雨が降りしきる中でも、着物の方も多く、黒っぽい洋服の中でひときわ華やかでした。卒業証書を受け取る娘に、感慨ひとしおでした。

台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(6)-王暁波の「小case」発言2014年03月18日

 綱要「微調整」問題は、一月末から民進党が合法性と変更内容について批判して、学術界、特に歴史学者は学術研究無視の「微調整」に猛反発、一方で教育部は合法性と正当性を主張し続け、国民党が擁護の姿勢、という両党のにらみ合いの中で推移している。でも二月下旬あたりには記事も減って、ちょっと熱も冷めてきたかな~と思っていた。

ところが、綱要「微調整」を主導したとされる世新大学教授・王暁波が二二八事件関連イベントの席上、二二八事件の被害者2万人を「小case」(些細な出来事)扱いした発言をして、『自由時報』3月1日の記事に「課綱召集人王曉波:2282萬人case」と採り上げられ波紋が広がった。記事の該当部分を訳しておこう。

 

世新大学中文系教授王暁波は昨日、蒋介石が反対派を殺すのは台湾に始まったことでは無い。大陸における「清党」で40万人以上の反対派を殺している;国民党が台湾の二二八事件で殺したのは2万人に過ぎず、両者を比べれば二二八事件の被害者数は「些細なこと(原文:「小case」)」に過ぎない!

 

王暁波は後に釈明したが、時すでに遅し、こんな考え方の人間に歴史教科書が「微調整」されるなどあってはならない、と大反発を引き起こし、綱要「微調整」はまたもやホットな話題に返り咲いた。


台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(5)2014年03月15日

さて、しばらく風邪で伏せっていて、少々間が空いてしまった。(ごめんなさい。)でもこのタイムラグが意外な発見につながった。それというのも、綱要「微調整」問題は、台湾で未だホットな話題で有り続けているのである。

つい先日、3月9日の『聯合報』の記事「歷史學者連署 教育部重申合法」は、歴史学者等が記者会見を開き、中央研究院や台湾大学等を含む台湾史や歴史学者等120名以上の連名(翌日の3月10日の自由時報「140學者連署 促撤黑箱課綱」では140名以上)で「学術的内容に添わない課綱微調整に反対する」声明を発表した事実を伝えている。しかも、このたびの綱要「微調整」を主導した王暁波の無神経で最悪な一言が更に騒ぎを大きくしている。(←これは別の機会に書きますね)というわけで、続きを。

『聯合報』のサイトをGoogleで「課綱調整」を検索すると、2月13日にはで73件、3月13日には93件ヒットした。先に説明したように『聯合報』の読者層はブルー陣営なので、社説を読むと一貫して綱要「微調整」擁護の立場で論を展開している。例えば、2月7日の社説「民進黨從「本土化」躍向「擁殖民」?」(民進党は「本土化」から「植民地擁護」に向かっている?)は綱要「微調整」を「教科書における日本植民地時代の過度な美化を修正するもの」と擁護し民進党を「植民地を擁護するもの」として貶しているし、2月11日の社説「日本的虐待史觀與民進黨的自虐史觀」では「教育部は日本植民地時期の用語を調整することで台湾の主体性を高めた:修正した主なものは『日本色を払拭(原文:去日本化)』であるが、民進党はこれを『台湾色を払拭(原文:去台湾化)』したと批判している」として民進党の「勘違い」を痛烈に批判している。

しかし、掲載されているその他の記事を見れば、『聯合報』も必ずしも綱要「微調整」擁護一辺倒ではないことに気づく。例えば「小野:微調沒對錯 但應公開討論」では作家・小野の意見「(微調整の内容が)正しいか間違っているかではなく、公開の場の議論不足こそが問題である」を紹介し、成功大学教授・林瑞明の「民国百年に施行された綱要は皆の討論を経て作成されたもので、今回の微調整を主導した王暁波も審査に関わったのに、なぜ今頃になって皆で議論し妥協した綱要をひっくり返すマネをするのだ」という非常に冷静でもっともな意見を載せている。また、「課綱微調會議資料 蔣偉寧:依法不公開」では教育部長が法律を盾にとって綱要「微調整」を決めた会議の録音資料の公開を拒んでいる件などを記事にもしている。

私が関連記事に目を通した限りでは、『聯合報』は「微調整」の強引なやり方について問題視している様子が感じられる。また記事全体としては「微調整」の変更内容を擁護する姿勢は示しつつも、民進党の主張や教育界の動き、民間の反応という形で、変更内容の不備も十分に伝えている。実に興味深い。


風邪ひきさん2014年02月26日

少しずつ暖かくなり、ようやく梅の花も咲き始めましたね。

我が家では家族が風邪をひいて長引いています。特に娘が咳と熱の風邪で寝込んでおります。咳はやっかいですね。夜中もずっと咳込んで眠れない様子、昼間も咳が止まらず…お薬が効いていないかも。娘のクラスはインフルエンザで学級閉鎖、今週は療養に専念することになりそうです。

季節の変わり目は体調を崩しやすいので、皆様もどうぞお体に気をつけてくださいね。

台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(4)2014年02月19日

さて、次に進む前に、Wikipediaを参照して、台湾の四大新聞『蘋果日報』『自由時報』『聯合報』『中国時報』の政治的傾向について、簡単に補足しておきたい。

ここまで見た『蘋果日報』『自由時報』の読者層は「泛緑連盟」(日本では「グリーン陣営」と呼ばれる)、民進党、台湾団結連盟の支持者が多いとされる。彼らは「台湾の独自性を強調し、台湾人としてのアイデンティティー」を強く求める傾向にある。その政治的主張は現在の中華民国の国家体制を変革して中華民国の「台湾本土化」を達成すること」である。

一方『聯合報』『中国時報』の読者層は「泛藍連盟」(日本では「ブルー陣営」と呼ばれる)、国民党、親民党支持者が多いとされる。彼らは「総じて中華民国にこだわり、中には中国人としてのアイデンティティー中国統一を求める」傾向にある。その政治的主張は、「現状を維持し、統一も独立もせず中国を刺激しないことによって平和に経済を発展させること」である。

こうして見ると、明確に二つに分かれているように見えるが、実はこうした政治的傾向も、流動的である。バックにある企業体の政治的傾向が直接影響する。例えば、『中国時報』はかつて蒋経国政権と1984江南事件(蒋経国に批判的な伝記を執筆した米国籍華人ジャーナリストが殺害された事件)で決裂、民主進歩党が政権を獲得すると名誉毀損で陳水扁に告訴されそうになるなど、時の政府としばしば衝突する新聞だった。でも、馬政権になって以降、そして特に2008年に食品大手・旺旺集団を率いる蔡衍明がオーナーとなり、翌2009年正式に統合発足した「旺旺中時集団」の傘下に入って以降は中国寄りの論調が増えたと指摘されている。一方、『蘋果日報』は、香港の『蘋果日報』と同じく反中国の論調で知られるが、数年前に『中国時報』を買収した「旺旺中時集団」の傘下に入るという話しがあった。その時は同紙の中国化を警戒した民衆により反対デモが行われ、買収話が無くなったらしい。

今回の綱要「微調整」は果たして覆されるのだろうか。事態の推移に注目したい。

台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(3)2014年02月12日

次にリベラルな新聞として知られる『自由時報』の記事を見てみよう。HPで検索(1月1日から2月12日まで)をかけると「歴史教科書」23件と「課綱調整」66件の記事がヒットした。重複する記事、関係ない記事もあるにせよ、関連記事は後から後から増えている。政界、学界と教育現場へと反響はどんどん広がっている様子が分かる。民進党や地方の教育界人士の声が記事になっているものが多いが、時間が経つにつれ、決定を下した会議の当日の様子、決定過程の不透明性、微調整の内容の問題点等が関係者や専門家により、次々と明らかになっている。

『自由時報』の歴史教科書の綱要(普通高級中学国文と社会領域課程綱要)微調整に関わる記事で一番早いのは1月18日の「高中課本修改 立委痛批馬去台灣化」「學者李筱峰 藉國家機器洗腦手段粗暴」である。すでに1月25日には「大中國史觀 高中新課綱 週一硬幹」で台湾大学歴史系教授・周婉窈による綱要中の台湾史課の変更が36%であったという検証結果が報じられているし、歴史学者が綱要の微調整に関わっていなかった事実も、1月30日には前国史館館長・張炎憲が「教部硬推「大中國意識」課綱/張炎憲批「倒退到兩蔣時代」で言及している。

1月24日に行われ綱要の微調整を決議した「課程発展会」の様子も2月5日の「課綱調整 課發會成員拒背書」で伝えている。当日の会議の参加者によれば、元々この会議は「十二年國教」則ち「十二年国民基本教育」の為に召集されたという。ところが、会議の途中で、王曉波、謝大寧、朱雲鵬が四大草案を提出、参加者は突然資料を渡され、内容を読む時間も与えられず、表決も行われないまま、決議されたことになってしまったらしい。この記事の通りなら、綱要の微調整は、法治国家において本来有るべき手順を無視して行われたことになる。

綱要の微調整から歴史研究者が排除された結果、歴史用語に多くの間違い、歴史の歪曲が見られるという。やはり専門家が具体的に例を挙げて間違いを指摘していると説得力があるというものだ。例えば、1月26日の国立台北教育大学台湾文化研究所教授・李筱峰〈李筱峰專欄〉用歪曲歷史來「撥亂反正」?」で「鄭氏政權」が微調整後「明鄭」に戻されたのを、歴史的事実と異なるとして解説している。

全ての記事に共通するのは、特に問題も起きていない歴史教科書の綱要を、わざわざ微調整した馬政府の意図を極めて政治的なものと受け取っている点である。だからこそ、気になるでは無いか。なぜこの時期に、こんな「微調整」を強行したのだろう。強い反発が出るのは分かっていただろうに。必要な手順も踏まず、内容もお粗末なままで。2月11日に行われた中国と台湾の閣僚級会談「王張会」に間に合わせるためだったのでは、と疑いたくなる。これが会談を行う代償だったとしたら…。もちろん上記の記事を全面的に信用したら、の話しである。

 今まで見てきた『蘋果日報』『自由時報』の記事はほぼ『微調整』批判の記事だった。片方の意見だけ聞いて判断するのは公平とは言えないので、あと二紙『聯合報』『中国時報』の記事も見てみよう。

(つづく…2014.2.16修正)



台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(2)2014年02月08日

台湾のメディアではこのたびの歴史教科書の綱要(普通高級中学国文と社会領域課程綱要)の改訂をどのように報道しているのだろうか。台湾の四大新聞の記事をネットで探してみた。各新聞の色が如実に顕れている。まずはGoogleで検索をかけたとき、最初にヒットした蘋果日報から。

蘋果日報(アップルデイリー)の1月29日付の記事黨國幽靈仍在宰制台灣」(陳翠蓮)はなかなか鋭い。タイトルを訳すと、「党国体制[i]のゴーストが今も台湾をコントロールしている」という感じだろうか?台湾大学歴史系教授・陳翠蓮はこの記事の冒頭で「旧正月直前に教育部がコソコソ、せっせと歴史教科書を改訂した」と批判し、改訂の責任者の専門家5名についても、専門が中国哲学2名、儒学1名や地理1名、経済1名と、台湾史どころか歴史学者さえ一人もいなかったと看破している。また台湾大学歴史系教授・周婉窈氏が検証した結果も載せており、「微調整」(原文=微調)が台湾史については大幅変更であったという事実をデータで示している。そのデータによれば、綱要中、台湾史課が占める字数2013文字中734文字、比率でいえば36.4%が書き換えられたという。中国史課は3728文字中114文字、比率でいえば3%しか書き換えられなかったのと比べるとその差は明らかである。(つづく)



[i][i] ※党国体制 中国国民党一党独裁下の中国(1928年~1949年)と台湾(1945年~1996年)において、中国国民党のポストと中華民国政府のポストが完全に重なり合う政治体制を指した語」(Wikipedia)