民国初期、革命を啓蒙する教科書『新漢三字経』2008年07月11日

『新漢三字経』
 中華民国建国直後に発行された『新漢三字経』を見ている。「三字経」といえば「人之初、性本善…」で始まる初学の教科書であるが、『新漢三字経』は三字経を真似て語呂よく創作された、いわば革命啓蒙書、革命宣伝書ともいうべき啓蒙教科書である。

 最初の12句を見ると「清之初 唔係善 由至近 殺到遠 苟不服 殺左先 服之道 要長辮 想滿奴 唔過處 殺漢人 血流杵」(清は初め暴虐でどこまでも遠征して戦をしかけた。降伏しなければ殺し、降伏したことを示す為には弁髪にして満人の奴隷に甘んじるしかなかった。過失が無くても漢人を殺し、血を流した)である。つまり、清朝開国の頃、清軍が中原で暴虐の限りを尽くしたことを子供に教える内容に始まるのである。

 歴史上の著名人の名前が多く登場するのも特徴の一つである。例えば摂政王ドルゴンに降って平西王に封ぜられ清に尽力し後に三藩の乱を起こした「呉三桂」は「是漢奸」(漢奸である)と罵られ、一方摂政王ドルゴンに揚州を囲まれ投降を拒んで清軍入城後自刎した「史可法」は「称忠烈」(忠誠を貫いた烈士)と讃えられ(ただし、揚州は降参しなかったために清軍により大虐殺が行われた。80万人が虐殺されたとも。これを「揚州十日」とよぶ。)、台湾で復明を唱えた「鄭成功」は「真有志 守台湾」(志をもって台湾を守った)、と讃えられている。また、清末に太平天国を鎮圧した曽国藩は「唔知醜」(恥知らず)と罵られている。
 辛亥革命の立役者・孫文については…揚州十日などの清軍の残虐行為を取り上げた後に「孫逸仙 想報仇 行革命 滅満州 数十年 不変志 以三民 為主義」(孫文は仇を討つ為に革命を起こし、満州を滅ぼした。数十年、志を変えず、三民主義を唱えた)として褒め称えられている。

 即ち、明朝の復興を唱えた者や忠義を貫いた者、清に刃向かう者、革命に従事した者は讃えられ、清朝側にいる者は非難され罵られているのである。明らかに、漢民族のナショナリズム的視点で、清朝を徹底的に否定する内容である。

 ちなみにこの教科書、『新漢三字経』『新漢四字経』『新漢五字経』の三冊セット中の一冊、資料集の解説によれば、海外の広東、華僑の子弟を対象にしたものであるらしい。本文にも広東語がずいぶん入っている。この教科書を所蔵していたのは、かつて孫文の秘書をつとめた朱伯元の子弟だそうだ。


参考:『小学教科書発展史』(国立編訳館、2005)