台湾の歴史教科書の綱要改訂の向かうところ(1)2014年02月07日

台湾の高級中学(高校に当たる)の歴史教科書の綱要が春節直前の1月27日に改訂されたというブログ記事「日本統治の“植民地”的性格を強調、台湾高校歴史教科書綱要の「反日」的改定とその背景」を読んだ。同記事によれば「反日シフトかと思われた方もいるかもしれないが、実は日本がメインの話ではない。つまり、反日か否かではなく、台湾はさまざまなルーツの人々がやってきて作り上げてきた「多元的地域」なのか、それとも「中国の一部」なのか、という対立であるという。どうもピンと来ない。

こういうときは自分で調べるのが一番である。早速、中華民国教育部のHPを確認した。すると、1月27日付の「普通高級中学国文と社会領域課程綱要微調整の説明」が見つかった。そして、これを手がかりに1月16日に行われた公聴会の資料を見つけることができた。「普通高級中学国文及び社会領域課程綱要の微調整公聴会資料2014 01」である。

長文の資料なので全部見るのは大変だが、そこまでは必要ないだろう。台湾史の部分に絞って見てみた。漢人が台湾に渡った経緯、宋、元との関わり、オランダ統治下、明初期の鄭氏、開港前までの清の統治、列強による通商と宣教等、日本統治下に入る前の台湾について多く加筆されている。また日清戦争から辛亥革命と台湾人士との関わりなど、大陸との関係が添加されている。日本に関わりがあるのは、日本統治下の台湾において日本がインフラ設備等を整えた理由を、日本人が日本の利益のために行っただけだと断じているところである。

私が見るところ、この変更により、台湾と中国大陸の歴史的結びつきが大幅に加筆誇張されることで、台湾における日本統治時代の日本の影響が矮小化されている。また結果として、台湾史が被主体的に記述される部分が増えたことで、改訂前と比べて台湾史の主体性が大きく低下したような印象を受ける。(つづく)


台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(2)2014年02月08日

台湾のメディアではこのたびの歴史教科書の綱要(普通高級中学国文と社会領域課程綱要)の改訂をどのように報道しているのだろうか。台湾の四大新聞の記事をネットで探してみた。各新聞の色が如実に顕れている。まずはGoogleで検索をかけたとき、最初にヒットした蘋果日報から。

蘋果日報(アップルデイリー)の1月29日付の記事黨國幽靈仍在宰制台灣」(陳翠蓮)はなかなか鋭い。タイトルを訳すと、「党国体制[i]のゴーストが今も台湾をコントロールしている」という感じだろうか?台湾大学歴史系教授・陳翠蓮はこの記事の冒頭で「旧正月直前に教育部がコソコソ、せっせと歴史教科書を改訂した」と批判し、改訂の責任者の専門家5名についても、専門が中国哲学2名、儒学1名や地理1名、経済1名と、台湾史どころか歴史学者さえ一人もいなかったと看破している。また台湾大学歴史系教授・周婉窈氏が検証した結果も載せており、「微調整」(原文=微調)が台湾史については大幅変更であったという事実をデータで示している。そのデータによれば、綱要中、台湾史課が占める字数2013文字中734文字、比率でいえば36.4%が書き換えられたという。中国史課は3728文字中114文字、比率でいえば3%しか書き換えられなかったのと比べるとその差は明らかである。(つづく)



[i][i] ※党国体制 中国国民党一党独裁下の中国(1928年~1949年)と台湾(1945年~1996年)において、中国国民党のポストと中華民国政府のポストが完全に重なり合う政治体制を指した語」(Wikipedia)

 




台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(3)2014年02月12日

次にリベラルな新聞として知られる『自由時報』の記事を見てみよう。HPで検索(1月1日から2月12日まで)をかけると「歴史教科書」23件と「課綱調整」66件の記事がヒットした。重複する記事、関係ない記事もあるにせよ、関連記事は後から後から増えている。政界、学界と教育現場へと反響はどんどん広がっている様子が分かる。民進党や地方の教育界人士の声が記事になっているものが多いが、時間が経つにつれ、決定を下した会議の当日の様子、決定過程の不透明性、微調整の内容の問題点等が関係者や専門家により、次々と明らかになっている。

『自由時報』の歴史教科書の綱要(普通高級中学国文と社会領域課程綱要)微調整に関わる記事で一番早いのは1月18日の「高中課本修改 立委痛批馬去台灣化」「學者李筱峰 藉國家機器洗腦手段粗暴」である。すでに1月25日には「大中國史觀 高中新課綱 週一硬幹」で台湾大学歴史系教授・周婉窈による綱要中の台湾史課の変更が36%であったという検証結果が報じられているし、歴史学者が綱要の微調整に関わっていなかった事実も、1月30日には前国史館館長・張炎憲が「教部硬推「大中國意識」課綱/張炎憲批「倒退到兩蔣時代」で言及している。

1月24日に行われ綱要の微調整を決議した「課程発展会」の様子も2月5日の「課綱調整 課發會成員拒背書」で伝えている。当日の会議の参加者によれば、元々この会議は「十二年國教」則ち「十二年国民基本教育」の為に召集されたという。ところが、会議の途中で、王曉波、謝大寧、朱雲鵬が四大草案を提出、参加者は突然資料を渡され、内容を読む時間も与えられず、表決も行われないまま、決議されたことになってしまったらしい。この記事の通りなら、綱要の微調整は、法治国家において本来有るべき手順を無視して行われたことになる。

綱要の微調整から歴史研究者が排除された結果、歴史用語に多くの間違い、歴史の歪曲が見られるという。やはり専門家が具体的に例を挙げて間違いを指摘していると説得力があるというものだ。例えば、1月26日の国立台北教育大学台湾文化研究所教授・李筱峰〈李筱峰專欄〉用歪曲歷史來「撥亂反正」?」で「鄭氏政權」が微調整後「明鄭」に戻されたのを、歴史的事実と異なるとして解説している。

全ての記事に共通するのは、特に問題も起きていない歴史教科書の綱要を、わざわざ微調整した馬政府の意図を極めて政治的なものと受け取っている点である。だからこそ、気になるでは無いか。なぜこの時期に、こんな「微調整」を強行したのだろう。強い反発が出るのは分かっていただろうに。必要な手順も踏まず、内容もお粗末なままで。2月11日に行われた中国と台湾の閣僚級会談「王張会」に間に合わせるためだったのでは、と疑いたくなる。これが会談を行う代償だったとしたら…。もちろん上記の記事を全面的に信用したら、の話しである。

 今まで見てきた『蘋果日報』『自由時報』の記事はほぼ『微調整』批判の記事だった。片方の意見だけ聞いて判断するのは公平とは言えないので、あと二紙『聯合報』『中国時報』の記事も見てみよう。

(つづく…2014.2.16修正)



台湾の歴史教科書の綱要改訂が向かうところ(4)2014年02月19日

さて、次に進む前に、Wikipediaを参照して、台湾の四大新聞『蘋果日報』『自由時報』『聯合報』『中国時報』の政治的傾向について、簡単に補足しておきたい。

ここまで見た『蘋果日報』『自由時報』の読者層は「泛緑連盟」(日本では「グリーン陣営」と呼ばれる)、民進党、台湾団結連盟の支持者が多いとされる。彼らは「台湾の独自性を強調し、台湾人としてのアイデンティティー」を強く求める傾向にある。その政治的主張は現在の中華民国の国家体制を変革して中華民国の「台湾本土化」を達成すること」である。

一方『聯合報』『中国時報』の読者層は「泛藍連盟」(日本では「ブルー陣営」と呼ばれる)、国民党、親民党支持者が多いとされる。彼らは「総じて中華民国にこだわり、中には中国人としてのアイデンティティー中国統一を求める」傾向にある。その政治的主張は、「現状を維持し、統一も独立もせず中国を刺激しないことによって平和に経済を発展させること」である。

こうして見ると、明確に二つに分かれているように見えるが、実はこうした政治的傾向も、流動的である。バックにある企業体の政治的傾向が直接影響する。例えば、『中国時報』はかつて蒋経国政権と1984江南事件(蒋経国に批判的な伝記を執筆した米国籍華人ジャーナリストが殺害された事件)で決裂、民主進歩党が政権を獲得すると名誉毀損で陳水扁に告訴されそうになるなど、時の政府としばしば衝突する新聞だった。でも、馬政権になって以降、そして特に2008年に食品大手・旺旺集団を率いる蔡衍明がオーナーとなり、翌2009年正式に統合発足した「旺旺中時集団」の傘下に入って以降は中国寄りの論調が増えたと指摘されている。一方、『蘋果日報』は、香港の『蘋果日報』と同じく反中国の論調で知られるが、数年前に『中国時報』を買収した「旺旺中時集団」の傘下に入るという話しがあった。その時は同紙の中国化を警戒した民衆により反対デモが行われ、買収話が無くなったらしい。

今回の綱要「微調整」は果たして覆されるのだろうか。事態の推移に注目したい。

風邪ひきさん2014年02月26日

少しずつ暖かくなり、ようやく梅の花も咲き始めましたね。

我が家では家族が風邪をひいて長引いています。特に娘が咳と熱の風邪で寝込んでおります。咳はやっかいですね。夜中もずっと咳込んで眠れない様子、昼間も咳が止まらず…お薬が効いていないかも。娘のクラスはインフルエンザで学級閉鎖、今週は療養に専念することになりそうです。

季節の変わり目は体調を崩しやすいので、皆様もどうぞお体に気をつけてくださいね。