星野道夫『森と氷河と鯨-ワタリガラスの伝説を求めて』を読む2009年05月18日

 先日NHKで「知るを楽しむ 私のこだわり人物伝 星野道夫 生命へのまなざし」の再放送をやっていた。私が見たのは3回と4回である。アラスカを撮り続けた写真家・星野道夫さんの写真と言葉、そしてアラスカで暮らした夫人・道子さん(3回)と作家・池澤夏樹さん(4回)へのインタビューで綴られた番組だった。

 まず驚いたのは、星野道夫さんの写真とは知らずに見ていて、そして印象に残っていた写真が沢山あったことである。そして、番組で夫人・道子さん、作家・池澤夏樹さんの言葉を通して、彼の生き方、写真の撮り方、自然への姿勢、思想といったものに触れたとき、もっと星野道夫さんのこと、この人の撮った写真を見たいと思った。

 そこで、図書館で探して見付けたのが、『森と氷河と鯨』である。とても印象的なエッセイ+写真集であった。写真の素晴らしさに加え、その奥にある撮影者の思いを知ることで、もっと深い感動を味わうことが出来た。原住民(インデアン)の創世神話ともいうべきワタリガラスの伝説を追い、朽ち果てていくトーテムポールに人間の文化と自然がとけ合うことの意味を感じ、鯨の骨の墓標を前に思いにふける。

 特に心惹かれたのは、星野さんがクイーンシャーロット島の今朽ち果てようとする古いトーテムポールを見にいったエピソードである。このトーテムポールはインディアン・ハイダ族のものだった。19世紀終わり頃にヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘で7割の住人が死に、生き残った人々は村を捨てて別の場所に移り住んだという。だからその島には百年以上も前のハイダ族の村の跡がそのまま残っている。その古いトーテムポールがある神聖な場所をハイダ族の子孫は朽ち果ててゆくままにさせておきたいとし、強国の博物館が人類史にとって貴重なトーテムポールを収集し保存してゆこうとする圧力から、守ってきたというのである。

 彼等の主張は「その土地に深く関わった霊的なものを、彼等は無意味な場所にまで持ち去ってまでしてなぜ保存しようとするのか。私たちは、いつの日かトーテムポールが朽ち果て、そこに森が押し寄せてきて、すべてのものが自然の中に消えてしまっていいと思っているのだ。なぜそのことがわからないのか」というものだった。私は、この話にとても不思議な感動を覚えた。民族学博物館等で展示物を見るとき、抱いてきた違和感を説明してくれたように思ったからである。星野道夫さんは、撮影という行為を通して、自然と人間の共生の有るべき姿を追求していたのだろうか。もっと彼の本を読んでみたくなった。

読んだ本:星野道夫『森と氷河と鯨-ワタリガラスの伝説を求めて』(世界文化社、1996)
 
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コメント

_ BIN★ ― 2009年05月19日 11時39分40秒

お久しぶりです。
トーテムポールの話ですが、私もショックを受けました。
どちらかというと、保存こそ大事と思ってきたほうですから。
しかし、なにごとにも命があり、時があるわけですから、
それを無理におしとどめず、自然の摂理に
身をゆだねることが、神(がいるなら)の意志でも、
あり、それとともに生きる人たちの意志でもあるわけです。
時をむりやりとめさせられ、剥製のようにして
展示されることを望まない・・・まっとうだと思いました。
いい記事をありがとうございます。
では、また。

_ ゆうみ ― 2009年05月22日 12時04分28秒

BINさん、お久しぶりです。
コメントありがとうございました。
難しい問題ですよね。
自然に生きる彼等の方が本質を忘れていないような気がします。また、私達にとっては、そういうことに気づく、それが自然に近づく第一歩なのかも知れません。

_ AokiGeki ― 2014年09月18日 20時42分17秒

ワタリガラスを調べているうちにこちらにたどり着きました。

>私たちは、いつの日かトーテムポールが朽ち果て、そこに森が押し寄せてきて、すべてのものが自然の中に消えてしまっていいと思っているのだ。

この部分を読んだ時に深く感動したことを思い出しました。そして、そのことをいつの日か忘れてしまっていたことにも気づきました。もう一度星野道夫さんの作品に触れなおしてみたいと思いました。

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