中国・清末、高等小学堂の入学式――1910年出版の『高等小学国文教科書』2008年09月10日

 資料集に面白い教科書を見つけた。宣統2年・1910年12月に出版された学部・編訳図書局編纂、京華印書局印刷の『高等小学国文教科書』(全八冊)である。収録されているのはごく一部のみだが、特徴ある課文を選んでいてとても興味深い。第一冊第一課は「開学記」、当時の入学式の様子を日記風に描写した課文である。大意は以下の通り。

 「1月の吉日、高等小学堂で入学式が行われた。交差した龍旗が、なんとも華やかで立派である。同級生はみな衣冠を正している。鐘の音がなると、堂長が教員や事務員と共に講堂に入り、前に立つと、学生もクラス別に入場して整列し、恭しく万歳牌と至聖位に向かい、三跪九叩首(跪いて三拝することを三度繰り返す)の礼を行った。礼が終わると、学生は堂長と教員に向かって一跪三叩の礼をそれぞれ行った。一切の儀式は初等小学堂と同じであるが、校舎は広くなり、授業の密度も濃くなり、規則も厳しくなる。同級生も増え、大いに雅やかである。向学心が自然に涌いてくる。」

 1月(原文は正月)に入学式、というのは奇異に感じるかもしれない。当時は学校は春季始業を採用しており、第一学期、第二学期の二期制で、第一学期が1月から、第二学期が7月からであった。(後に秋季始業になったらしい。)中国では当初学校は「学堂」と呼んでいたので、「堂長」は校長にあたる役職。ちなみに「龍旗」は龍が描かれた清国旗・黄龍旗のことである。確か三角の旗だったような…でも北洋艦隊の旗は四角だったような…と記憶が曖昧だったので、調べたところ1890-1912年は四角旗、1862-1890年は同じ意匠で三角旗だったことが判明した。

 なお、「万歳牌」「至聖位」は見たことがないが、三跪九叩首(跪いて三拝することを三度繰り返す)の礼は皇帝に対して行われる儀礼で、万歳牌は当時の皇帝・宣統帝、至聖位は皇帝の先祖に対する敬意を現すために、参拝を義務づけられたものだと思う。たぶん…。皇帝の前ではなく、身代わりのようなものに、三跪九叩首、更に校長と教員に向かっても一跪三叩の礼をそれぞれ行うというのだから大げさな感じがするが…戦前の日本でも学校儀式の中に、天皇の「御真影」「複写御真影」に「拝戴」する儀礼があったので同じようなものなのだろう。もしかしたら、日本の学校儀式から取り入れられたのかもしれない。それにしても衣冠をただして…とあるがどんな服装だったのだろう。イラストがあったら、もっとよくわかったのだが、イラストはないようで…ちょっと残念である。

参考:『小学教科書発展史』(国立編訳館、2005)
「中国にまつわるさまさまな国旗」(ブログ:閑話も休題) http://blogs.yahoo.co.jp/amatsukaze1/53834520.html

コメント

_ 天津風 ― 2008年09月13日 08時31分01秒

こんにちは、「閑話も休題」にリンク&TBありがとうございました。エコーお返しいたします。

それにしても三跪九叩・一跪三叩の入学式とは、現代日本の学校から見ると強烈なインパクトですね。 学業そのものが清帝の「御下賜品」として敬われていた雰囲気を感じます。
もしかして、「起立-礼-着席」の普段の授業開始の礼も、一跪三叩だったりするのかな?とか、色々想像してしまいました。

_ ゆうみ ― 2008年09月16日 16時14分36秒

天津風さん、コメント&TBありがとうございました。

おっしゃるとおり、学業そのものが清帝の「御下賜品」のような感覚だったのでしょう。清が学制を敷き、近代教育が行われたごく短い期間の学校事情ももう少し詳しく知りたいものです。

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_ 閑話も休題 - 2008年09月13日 08時01分15秒

さて、どうも…このたびのチベット騒乱〜聖火リレーの流れを僕の視点から見ると、<満州>というキーワードが付いて廻るようです。

○現在のチベット鉄道が、かつての大日本帝国の『満州鉄道』と同じ道に見えて仕方がない、と少し前の記事に書いた。
○中国が体裁上謳っていて、その実態が問題視されている『多民族国家』も、『五族協和の王道楽土』を謳いつつ日本の傀儡政権に過ぎなかった『満州国の理想』によく似ている。
○そして、前の記事で記したように、「満州」という女真族の名称自体(マンジュシャリー(文殊菩薩...