闇の子供や女性を助ける命がけの活動を続ける女性ソマリー・マムの自伝『幼い娼婦だった私へ』を読んで2008年08月31日

ソマリー・マム『幼い娼婦だった私へ』
 カンボジア出身の女性ソマリー・マムの自伝『幼い娼婦だった私へ』は衝撃的な本である。この本にはソマリー・マム自身のあまりにも不幸な過去の体験に加え、彼女とフランス人の夫が始めた女性救援組織「AFESIP(アフェシップ)」の活動、救出した被害女性達の体験が綴られている。

 カバーの著者紹介はソマリー・マムを「1971年頃、カンボジアの少数民族としてモンドルキリ州に生まれる。父母の消息は不明。見知らぬ老人に引き取られ、十四、五歳で兵士と結婚させられる。まもなくして売春宿に売られる。拷問を受け、暴行される日々が八年近く続く。やがてフランス人と結婚。フランスで暮らした後、1996年、女性救援組織「AFESIP(アフェシップ)」をカンボジアに設立。買春組織と闘う。…(後略)」と紹介している。淡々と書かれているが…両親を知らない10歳くらいだったソマリー・マムを養女として引き取った老人、これが実はとんでもない人物だった。幼いソマリー・マムを奴隷のようにこきつかい、借金のかたに12歳だった彼女を借金のかたに華人の商人に売り、14~15歳でのときには兵士との結婚を強制、その後、戦地から夫が戻ってこないのを知ると、今度は彼女を家から騙して連れ出して売春宿に売ってしまったのである。彼女を売ったのは親代わりの老人であるが、実は後に彼女が救うことになる被害女性の多くが、親や祖父母、親戚にわずかな金で売られている。

 『幼い娼婦だった私へ』はノンフィクションである。私と同じ時代を生きているとは思えないほど、カンボジアの前近代的な社会環境に驚かされる。政府も警察も裁判所も金で動き、弱い立場の彼女たちを守ってくれるどころか、救出した女性達を捕まえて再び苦界に引き戻す方に協力するという有様である。そして救出する側は脅迫され、危害を加えられ、本人も家族も常に命の危険にさらされる。梁石日『闇の子供たち』に出てくる目を覆うばかりの悲惨な出来事の一つ一つが、真実をもとに書かれていることが実感出来た。

 ソマリー・マムは1998年、スペインのアストゥリアス皇太子賞を受賞したことでその活動が注目され、2006年のトリノ五輪開会式ではアジア代表として五輪旗を持つ女性に選ばれた。そして今年は日本の東京、大阪、長崎にも招かれ各地で講演を行った。国際子ども権利センターのHPによれば、10年前、ソマリー・マムが活動を始めたころは、日本人といえば、少女たちに残虐な行為をする買春宿の客しか知らなかったので、日本人に対して悪いイメージしか持っていなかったが、今回、多くの関心を寄せる日本の方々に会ってエンパワーされたと話していたそうだ。そして最後の佐世保の講演会場で、「どうか、このいいイメージのままの日本人でいてください」と言って帰っていったとのこと。いまや、国際社会が彼女とその活動を見守っている。

 彼女はいまも、本人と家族の命を狙われるという極限状態の中で救援活動を続けている。彼女を支えているのは、少女達を助けたいという強い思いである。かつては被害者だった女性が勇気を振り絞って始めた活動が、多くの命と身体と心を救っている。ソマリー・マムの被害女性への支援は、救出そのものだけでなく、身体の病気の治療、専門家による心のケア、自立する為の職業訓練や、自立後のサポート、など多岐にわたる。そしてなんといっても被害女性にとって、彼女たちの地獄を本当に分かっているソマリー・マムの存在は大きい。ソマリー・マムというたった一人の女性が、ここでも世界を少しずつ変えている。とても感動した。

読んだ本:ソマリー・マムの自伝『幼い娼婦だった私へ』(文藝春秋)
参考:
国際子ども権利センターによるアフェシップの紹介ページ(日本語) http://www.jicrc.org/pc/cambodia/activities/partner/AFESIP/org/index.html
国際子ども権利センター イベント活動報告「ソマリー・マムさん招聘事業 各地で大盛況」 http://www.c-rights.org/2008/04/post-1.html (詳しい報告もダウンロード出来る)
アフェシップHP(英語) http://www.afesip.org/