愛国主義教育実施綱要の中身2-第二章(1/3) ― 2012年10月01日
第二章
「愛国主義教育の主な内容」には、愛国主義教育の範囲、内包される政治的意図、教育の中で重点とする項目が如実に示されている。内容の傾向としては次の三つに分けることができる。六-八条は、建国以来受け継がれてきた愛国主義教育の内容、九-十二条は鄧小平の論説を基盤にした新時期の愛国主義教育の内容、十三-十四条は中国が現在抱える具体的な問題を念頭に置いた愛国主義教育の宣伝方針、である。長くなるので三回に分けて、重要な部分は全訳、その他は抄訳で紹介しよう。
まず六条を見ると、「愛国主義教育の素材は大変幅広いものである。過去の歴史から現在の事象、物質文明から精神文明、自然の風景から物産や資源、社会生活の各処に愛国主義を推進するための宝が眠っている。国情に関わる資料を上手に運用し、各種の貴重な教育素材を注意深く掘り起こして、愛国主義教育の内容を豊かにしなければならない。」(六条)
とあり、愛国主義教育の素材は実に広く設定されていることが分かる。このように愛国主義教育の素材を広範囲に求め、あらゆる教科や場面に関連づけることが、建国以来行われてきた。
七条からは愛国主義教育の重点が歴史の中でも特に近現代史に置かれている事実が見て取れる。これは反日感情とも関係する条項なので全訳する。「中華民族の悠久の歴史について教育を行わなくてはならない。我が国人民の愛国精神は中華民族の長い歴史の中で生まれ発展したものである。中国の歴史、特に近代史、現代史の教育を通じ、中華民族の弛まぬ努力と不撓不屈の発展過程を知らしめ、我が国各族人民の人類文明に対する卓越した貢献を理解させ、歴史上の重要な事件と著名人物について学ばせ、中国人民が外来の侵略と圧迫に反対し、腐敗した統治に反抗して、民族の独立と解放を勝ち取り、前進を続け、血みどろになって戦果をあげたことを理解させ、特に中国共産党が全国人民を率いて、新中国を建設するため、勇敢に戦った崇高な精神と輝かしい業績を理解させなくてはならない。」(七条)この条項には「血みどろになって戦果をあげた」など、他の条項とは明らかに異なる生々しい表現が目に付く。また「外来の侵略と圧迫」は欧米列強も含まれるが主に日本を、「腐敗した統治」は主に国民政府を指しているのは明確である。「特に」(原文は“特別”)とわざわざ強調してまで「中国共産党が全国人民を率いて」「勇敢に戦った」歴史を重点的に学ばせようとしている姿勢に気づかされる。実際この種の教材、つまり日中戦争や朝鮮戦争で犠牲になった烈士、国民政府の弾圧で犠牲になった英雄の物語が、建国以来の語文教科書に数多く収録されてきた。そして近現代史は歴史教育の中でも特に重要視されている。
次の八条の冒頭は「中華民族の優秀な伝統文化教育を行わなくてはならない」とある。上の七条に比べると、穏やかな印象であるが、実は重要な思想教育を含んだ内容である。日本人は伝統文化教育といえば、(日本なら)茶道や華道、着物の着付け、能、歌舞伎といったものをイメージするかもしれない。しかし、ここで述べられている伝統文化教育はそのようなものとは全く異なることに気づかなくてはならない。その内容は「傑出した政治家・思想家・文学者・科学者・軍事専門家や経典著作、数多くの文物や史跡、文化遺産などを愛国主義教育の資源とする」というもので、具体的には、中国共産党のリーダー達、例えば毛沢東、周恩来、鄧小平、温家宝の心温まるエピソードを通じて共産党への親近感を育んだり、国内の優秀な科学者の事績と同時にその愛国心を学ばせるエピソードを学ばせたり、万里の長城など中国が世界に誇る史跡や古代文明の発祥地としての歴史、高度な文化の成熟(詩文、数学や天文学等)等を素材とした中国人としての誇りを育成する教育がこの条項に当てはまると思われる。このタイプの教材は建国以来の愛国主義教育の中で大きな役割を果たしてきたが、綱要によって、更に素材の範囲が広げられたようである。
以上のように六条、七条と八条はいずれも建国以来行われてきた愛国教育の伝統を引き継いだ内容である。次に新時期の愛国主義教育の内容について述べられている九条-十二条を見てみよう。(2012年10月4日改訂)
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