愛国主義教育実施綱要の中身3-第二章(2/3) ― 2012年10月02日
鄧小平の論説を基盤にした新時期の愛国主義教育について主にまとめられているのが、九―十二条である。一つ一つ見ていこう。
九条を見ると、「党の基本路線と我が国の社会主義建設の成果こそは愛国主義教育の最も現実的でイキイキした教材である。特に党の十一期三中全会以来の改革開放と現代化建設の大いなる成果と成功経験を慎重に運用して教育を行うべきであり、人民群衆に社会主義の信念をしっかりと植え付け、党の基本路線が揺らがないようにしなくてはならない。」とあって、あくまでも愛国主義教育は党の路線と共にあることが強調されている。
十条は「中国の国情[i]についての教育を行わなければならない。国情教育は全世界環境という大きな背景のもとで行われなければならない。中国の経済・政治・軍事・外交・社会・文化・人口・資源等の歴史と現状を人々が系統的に理解するのを助け、我が国の現代化建設の目標と段取り、壮大な展望を理解させるべきである。」とある。内容は領土等の認識に関わる知識を補完する役割を持っていると思われる。このタイプの教材は一九八〇年代教科書にすでに出現しているが、この綱要以降整理され、意識的に他の条項とリンクするようになったようである。
十一条は「国家観念と国家の主人公としての責任感、法を遵守する習慣の育成、正しく憲法と法律が定めるところの公民権を行使すると同時に、憲法と法律に定められた公民義務を護り、国家利益を断固として守る意識を増強すべきである。」と、第二章の中では唯一法治国家的で穏当な表現であるが、ここでも国家利益を守る義務が強調されている。
十二条は「国防教育と国家安全教育を行わなくてはならない」というもので、「国益に反する行為や祖国の尊厳を傷つける行為、国家の安全を危うくする行為、祖国を分裂に導く言動に対し、全人民が断固として闘うよう教育する」と明確に述べている。七条の歴史教育と十条の国情教育が基盤にあって、十二条の国防教育が功を奏せば、今回の尖閣問題に見られる反日デモのような現象が出現しやすくなる、と考えられる。また十二条に引っかかるような行為が他国によって行われても、同様の現象が起きる可能性もある。なお、二〇一二年九月の新学期より新しい教科「国防課」が学校教育に導入され、小学生から初級中学まで行われるようになり、国防教育が一段と強化されることになる。
九-十二条の新時期の愛国主義教育の内容から分かるのは、現在の共産党政権の路線に沿った国家への忠誠心の育成が強力に図られている事実である。十一条に見るように法律を遵守する教育も項目として入っているが、ここでも国家の利益を至上のものとしており、結果として法律や公衆道徳よりも「愛国」「国家の利益」の方が優先される価値観を育てているといえるだろう。
[i]中国語の「国情」は日本語の「国情」とは違うニュアンスを含んでいる。近代の日本や欧米列強による植民地化と侵略と奴隷化いう経験を持つ国という自覚、毛沢東時代につくりだされた古いシステムが各処の残っているという現状、そして中国が常に向かい合うことを余儀なくされる問題(例えば、人口の多さ、広大な国土と格差、多民族国家等)の情況、さらに綱要の十条の場合でいえば「中国の経済・政治・軍事・外交・社会・文化・人口・資源等の歴史と現状」等を踏まえた上での、「中国が置かれている実際の情況」を指している。(2012年10月3日改訂)
コメント
_ 筧武雄 ― 2012年10月02日 14時34分45秒
_ ゆうみ→筧武雄さん ― 2012年10月03日 21時49分54秒
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://youmei.asablo.jp/blog/2012/10/02/6590367/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
同様の言葉として「中国の特色を持った」という修飾語もよく使われますが、われわれ外国人にとっては意味がよくわかりません。
どんな感覚(ニュアンス)で彼らは使用しているんでしょうか?