ちょっと気になる心理援助読本の政治色2008年05月29日

 26日紹介した心理援助読本『我們一起度過――獻給地震災後的孩子們(我々は共に乗り越えよう――被災した子ども達に捧げる)』は、地震で心に傷を受けた子供がPTSDにならないために、また症状が現れたときに自己判断して専門家に相談できるように配慮された内容である。但し、中国ならではの政治色も見える。

 見開きには国のトップ2名の言葉が載っている。「幼い頃から強くなることを学び、困難に遭っても挫けなければ、きっと素晴らしい未来が待っているよ」これは胡錦涛氏が18日に重慶近郊の什邡市を訪問したときに祖父を失った男の子の肩を抱いて話しかけた言葉、「政府が君たちの生活を保証するから、ここでは自分の家のようにすればいいんだよ。災害には見舞われたが、君たちは幸いにも生き残ったのだから、がんばって生きていくんだよ、いいね?」これは温家宝氏が13日に被害が大きかった棉陽市で孤児に話しかけた言葉である。両方とも、中国では孤児との写真入りで報道された。特に温家宝氏の言葉は中国では国民との「承諾」(約束)の言葉として大々的に取り上げられた。

 更に、最初の単元「君は……(の状態)になるよ」に「こんなに大きな災難に遭っても、君たちはがんばってきた。これはとても容易なことではないし、党と政府の懸命の努力の結果でもある。」として、「党と政府」が出てくる。他には、巻末「後記」には「党と政府は、各種の有効な手だてをこうじて積極的に抗震救災を展開すると同時に、被災地の小中学生の心の健康に非常に強い関心を持ち続けている。」の一文がある。 本全体通して目についたのはこのくらいである。

 国家のトップの言葉が見開きを飾るのは、ちょっと古いが文化大革命時代の毛語録の教科書を想起させたし、関係なさそうな部分に「党と政府」を出すのも違和感はぬぐえないが、教育部が出している本だから、そういうものなのだろう。また、実際に大災害にあった子ども達にとっては、政府のトップが自分たちを見守り生活の保証をしてくれるほどありがたいことはないだろう。愛国教育の効果もありそうだ。

 誤解がないように付け加えておくが、心理援助読本は上記以外は、純粋に心のケアを目的とした内容である。「災難が過ぎた後、君たちには情緒と身体感覚の変化があるだろう。例えば、悲しみ、怖さ、救いの無さ、身体の不調、等々、これらは本当のところとっても自然なことなんだ。しかし、幸せなことに、全国のおじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、兄弟姉妹は君たちのことを心配し、君たちが健康に育っているか気に掛けているよ。」本文全体はこのように平易な言葉でやさしく語りかける文体で書かれている。災害後の自身の様々な心身の変化を「自然なこと」として受け入れられるように、また、その具体的な対処方法を丁寧に説明し、症状が出ている人への接し方なども載せられているほか、症状の自己診断表も用意されて専門家への相談の目安にするよう工夫されている。

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