蘇智良グループ案が採択され審査に通った理由――佐藤公彦『上海版歴史教科書の「扼殺」-中国のイデオロギー的言論統制・抑圧』を読む32008年10月09日

 本書で佐藤氏は、「文明史」を主軸とする蘇智良グループの案が採択された背景を2000年に公布された教育部の「中学歴史教学大綱」の視点にあるとしている。

 2000年公布の「中学歴史教学大綱」は、従来通り「愛国主義教育、社会主義教育、国情教育、革命伝統教育と民族団結についての教育をし、中華民族の優れた文化伝統を継承し、高揚させ、しっかりと民族の自尊心、自信を持ち、祖国の社会主義建設のために奮闘する歴史的責任感を持たせるようにする。」ことを求める一方で、「他の国々や民族の創造した文明成果を尊重し、国際社会の変化と発展を正確に受け止め、正しい国際意識を初歩的に持つようにし、人類の伝統と美徳を学び、曲がりくねった人類の発展史から人生の価値と意義を汲み取り、誠実で善良、積極的で向上心があり、健全なる人格、および健康的な美意識や情緒が形成され、正しい価値観と人生観を持つような望ましい基礎を作ること。」という新しい目的を提示していることを指しているようだ。

 実際、蘇智良主編の歴史教科書編写組が、学習の重複を避け、効果的な学習法であるテーマ史を教科書に採用を決めたのは、妥当な選択であるように見える。また採用したテーマ史が「中国史と世界史を融合させて一体とした」ものであったことは、中国の歴史教科書としては非常に画期的であったけれども、先に紹介した教学大綱の目的に沿ってもいる。ただ、グローバリズムの流れを意識していたとしたら、その点では冒険的要素はあったかもしれない。それも、あくまでも中国で許されるギリギリの線を見定めてのものであったに違いなく、だからこそ、カリキュラム教科書改革委員会の審査を通過し、上海市カリキュラム改革委員会の他の二つの「審査」を通過できたのである。

参考:佐藤公彦『上海版歴史教科書の「扼殺」』(日本僑報社、2008年9月9日)

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