「中華民国元年正月訂正初版」の商務印書館『訂正 最新高等小学国文教科書』第一冊2008年10月24日

「中華民国元年正月訂正初版」の中華民国高等小学用『訂正 最新国文教科書』奥付
 奥付に「中華民国元年正月訂正初版」とある教科書を『小学教科書発展史』で見つけた。先に紹介した商務印書館『最新高等小学国文教科書』である。正しくは書名の最初に「訂正」と入って、『訂正 最新高等小学国文教科書』である。中華民国成立が1912年1月1日、新しい国の臨時の学制が1月19日に頒布されたばかりの同じ月に、新しい国の方針に合わせた教科書を出版したことになる。革命成功を確信して教科書編纂をすすめていた中華書局の教科書よりも早い日付で、しかも、楢本照雄『初期商務印書館研究』によれば、保守的な首脳陣のもと、革命の成功を予測出来ず完全に後手に回っていたという商務印書館が…とても意外であった。

 表紙には「中華民国高等小学用」とあり、書名は『訂正 最新国文教科書』第一冊となっている。第一冊について目次を確認すると、全六〇課中、「第一課 政体之別」「第二課 共和政体」「第三課 我国革命」「第四課 人民之権利義務」、他に共和国の宗旨から考えるに「第五課 尊重人類」「第二四課 男女」あたりは加筆された可能性が高い。

 この内、『小学教科書発展史』に載っているのは、第一課から第三課だけだが、これだけでも確認出来たのはありがたいことだ。さて、内容だが、「第一課 政体の別」は君主専制が今の世に不適であることを指摘し、君主立憲制と民主立憲制を肯定する内容、「第二課 共和政体」は君主専制の問題や弊害を述べ、共和制のあり方、即ち国民による選挙で選ばれた議員と総統が国会と政府を組織するという仕組みを紹介し、アメリカ独立戦争やフランス革命など他国の共和制の成り立ちにも言及し賞賛している。「第三課 我が国の革命」は近年の清朝の貴族の専横と腐敗を指摘し、革命の正当性と辛亥革命が起こった経緯、及び中華民国が成立するまでの清朝との交渉について述べ、中華民国誕生を説明する内容となっている。

 これくらいの加筆なら、新しい共和国の宗旨に通じている人間が編集スタッフにいれば、1月出版でも十分間に合うだろう。無論、全八冊あるのだから、それぞれに訂正、加筆が施されたには違いない。奥付の編纂者には高鳳謙、張元済、蒋維喬の三名の名前が見える。蒋維喬は前述のとおり、中華民国初期の教育部の秘書長であるから、加筆も訂正も、最も適任であったろう。また、これは全くの筆者の推測だが、他の出版社に、新しい学制による教科書訂正の見本として示す為に急ぎ用意されたものかもしれない。

 ところで、ここで気になるのが、以前は奥付にあった日本人の校訂者の名前が消えていることだ。これについてもいろいろ事情があるようなので…そのうち紹介しようと思っている。 (2008年10月28日修正)

参考:司琦 著 国立編訳館 主編 『小学教科書発展史』(国立編訳館、2005)

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