『平和への道――自爆攻撃にまきこまれた少女の日記』を読んで2009年01月13日

『平和への道――自爆攻撃にまきこまれた少女の日記』
 1月6日の「天声人語」に詩が紹介されていた。「美しい言葉の裏側に/苦しみ、痛み、恐れ、不安の年月が/隠されています/でも、これらの言葉の倉庫には/もう一つの言葉がある――それは、希望」これは「戦争と平和のまとめ」という詩の一節。詩の作者はイスラエルの少女・バット・ヘン・シャハクさん(以下バット・ヘン)。1996年、ユダヤ伝統のプリムの祭りに友人三人と共に出かけて、ガザからやってきたパレスチナ青年の自爆テロに巻き込まれ、亡くなった。享年15歳。この日はバット・ヘンの誕生日だった。この詩に導かれて私は『平和への道――自爆攻撃にまきこまれた少女の日記』を手にしたのだった。

 書名の副題に「日記」とあったので、『アンネの日記』のようなものを想像していた。でも、読んでみると、この本は日々の日記の抜粋ではなく、詩と写真を交えた一種のアルバムのようなものだった。

 彼女の詩には、戦争が色濃く影を落としている。家族への深い愛、アラブ人への複雑な思い…少女がこれほどまでに平和について考え、願わずにはいられないほど、多くの恐ろしい悲しい出来事が次々に起こる現実がその背景にある。彼女の詩には平和への渇望が見える。ガザから来て自爆テロをした青年は、イスラエルに芽生えた小さな平和の芽を、自分の命の犠牲によって、摘んでしまったのだ。なんと皮肉なことだろう。

 本書には他にも友人に贈ったカードに綴られたメッセージの作品集、バット・ヘンの思い出の写真が収められている。また、児童文学者の今関信子さんが、イスラエルのバット・ヘンの家族や友人、恩師等に取材し、自爆攻撃でバット・ヘンが犠牲になった経緯や在りし日の面影を語り、今のイスラエルを紹介した紀行文「イスラエル紀行[平和への夢]を感じる旅」も写真と共に載っている。更に巻末に、イスラエル・パレスチナ関連年表と地図を見ることが出来る。

 この本を読んで一番強く感じたのは、イスラエルのユダヤ人、アラブ人、双方とも本当は平和を求めているということである。ユダヤ人の中にも、心で願っているだけではなく、一歩進んで、平和について話し合ったり、アラブ人と共通の平和の活動に参加したりしている人がいる。バット・ヘンの両親もそうした人であり、愛娘を失ったことをきっかけに独自の平和運動を立ち上げた。バット・ヘンの名を冠したその運動は娘の平和への思いを叶えることを目的としている。また、「和平へのイスラエル・パレスチナ遺族の会」(以下、イスパの会)にも参加して、アラブ人との交流も行っている。この会は愛する人を亡くした「痛み」を共通項にして分かり合おうという集まりである。「平和」という娘の夢を現実のものにするために、バット・ヘンの両親はイスパの会の一員として日本を訪れ、懇談会でイスパの会の誕生経緯と活動内容、そして娘の詩を紹介、この本はそこでの出会いをきっかけに誕生した。最後にこの本の題名ともなった、バット・ヘンの詩「平和への夢」を引用する。

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「平和への夢」
人にはそれぞれ夢がある。
ある人は大金持ちになること、
またある人は作家になること。
私にも夢がある――
この世が平和になること。
みんなが、いつ平和が
おとずれるのか知りたいし、
だれでも、それが夢で
終わらないと信じたい。

でも、時々わたしたちは
あきらめてこう思う。
――左派と右派、
アラブ人とユダヤ人、
それぞれがパートナーとなり、
みんなが友だちとなって、憎しみと戦争がもうなくなる――
みんなが一つになる幸せな日は、
妄想、夢想、おとぎばなしみたいなもので、やって来そうにもないって。
わたしたちみんな、議論することにおいては専門家で、
わたしたちみんな、みごとに他人のせいにする。
わたしたちみんなが、
どういう世界がすばらしい世界なのか知っているのに。
もしかしたら、私は幼稚で世間のことなど何も知らない少女かもしれない。
でも、私は、祈りたい。
平和と安全を。そうすることは、いきすぎなの?

旧市街――エルサレムの道々を
安心して歩き続けたいと夢見るのは、いきすぎなの?
若い兵隊さんたちの母親が
お墓で泣くのを見たくないと願うのは、いきすぎなの?
わたしたちはみんな平和を望んでる。
でも、とてつもなく大きな質問に答えは出ない。
どうやったら平和を創れるのかしら?
みんなは、平和のために
どれほどの犠牲を払えるのかしら?

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 バット・ヘンの問いはとても重い。本当に、どうしたら平和を創れるのだろう。みんなは、平和の為にどれほど犠牲をはらえるのだろう。

読んだ本:原詩:バット・ヘン・シャハク、著者:「平和への夢」出版委員会、監修訳:今関信子 ドロン・B・コヘン、訳:ランデルマン・真樹『平和への道――自爆攻撃にまきこまれた少女の日記』(PHP研究所、2006)

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