科挙の予備試験・学校試の概要22009年05月14日

 学校試について、簡単に紹介しておこう。学校試は童試と呼ばれ、三年に二回の割で行われる三段階の試験である。第一が県で行われる「県試」、第二が府で行われる「府試」、第三が本試験ともいうべき「院試」である。この三段階の入学試験をクリアできるのは、大きな学校では40名を超えず、小さな学校では15名と決められていた。

1)県試
 「県試」の試験の責任者は知県、県の長官である。この県試、第五次試験まであった。どうやら、県試から院試まで第三次試験以降は形式的な試験であり、替え玉等不正防止のための確認作業と決定までの時間稼ぎのようなものであったようだ。だから、この中で最も重きを置かれ、人数が絞られるのは第一次試験である。県試の第一次試験では14歳以下の未冠と15歳以上の已冠では問題が異なっていた。14歳以下には、平易な問題を出し採点にも手心を加え、15歳以上にはなるべく難しい問題を出したという。それもあって、年齢をごまかす受験者が大半であったらしい。
 第一次試験の問題は三つ、一つ目は「四書」から、二つ目はやはり「四書」から、三つ目は「詩題」(五言詩の題を示し韻を指定して詩をつくらせるもの)で、早朝から夕刻まで、丸一日かけて行われた。第二次試験以降は少数の者がふるい落とされるだけであり、第五次試験は康煕帝の「聖諭広訓」(せいゆこうくん)十六条の内の指定された一条を書く。天子の作ったものだから、一字一句間違えることは許されないが、これさえ間違えなければ、よほどのことがない限り、落第者を出さぬ例となっていたという。このように、最初の試験「県試」でも、相当困難な試験だが、これに通った者には次の「府試」を受けることが許されるだけである。

2)府試
 「府試」の試験の責任者は知府、府の長官である。府のおかれた町、府城は相当繁華な大都会であり、試験のために試院とよばれる常設の建物がある。県試合格者の童生はそれぞれの県から証明書をもらって続々この府城に集まる。
 試験そのものは県試の結果の再確認というところ、内容も県試の手順とほぼ同じ形で行われる。これに通るとやっと、本試験たる「院試」を受けることが許されるのである。

3)院試
 府内の学校に入学して生員になるための最終試験であり、入学の合否が決定されるのが「院試」である。「院試」の試験官は学政(提督学政の略)という中央から派遣される高官で、この学政が三年に二回、管轄内の府をめぐって行う試験が「院試」「歳試」「科試」という三つの試験であった。(「歳試」と「科試」は生員になってから受ける試験。)
 院試は第四次試験まであった。第一次試験の第一の問題は四書題、第二の問題も四書題、第三の問題は詩題であったという。これを夜明けから夕刻までに仕上げなくてはならない。翌々日に合格者番号の発表があり、当日午後か翌日午前中に第二次試験がある。第一次試験では入学定員の三割増しから五割り増しを通過させ、第二次試験で入学定員まで絞る。さらに形式的な第三、第四試験がある。第三次試験は経書の解釈の答案の他に第一次試験の答案の最初の数句をおぼえていて書き込み、更に第一次の答案と筆跡が同一であるかを確認する。替え玉を警戒してのことである。さらに、第四次試験では四書・五経・詩の題が出るが、その成績には重きをおかず、指定された「聖諭広訓」(せいゆこうくん)の一条を間違いなく清書すればいいらしい。

4)新生員となる為のイベント
 「院試」の合格発表は、孔子を祭った文廟の大堂で行われる。それというのも合格発表は同時に入学式であり、このときから合格者は生員として官吏に準ずる身分を取得したことになる。もっともこの式には学政も合格者も参列せず、新生員はそれぞれの学校の教官に付き添われて、学政の宿舎を訪問し、合格の恩を謝するのが慣わしであった。新生員は決められた制服-それは藍色の地に黒い縁のついた衣服に、雀頂という雀の形の帽子を被る-を身にまとい、学政は一人ずつ新生員を引見して、「金花」と称する帽子飾りを与える。これが新入学のしるしなのである。

参考:宮崎市定『科挙-中国の試験地獄』(中公新書、1963初版)  

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