天才の育て方――『鳩山春子――わが自叙伝』を読む22009年07月11日

 『鳩山春子――わが自叙伝』の中で、個人的体験もおそらく作用していると思われ、興味深いのが、彼女の「天才の育て方」論である。子供を天才に育てる方法、ではなく、天才肌の子供を育てるに当たっての注意が述べられている。重要と思われる箇所を引用してみよう。

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 「何れにしても幼い時代から、天才には殊に時分で娯楽をせしめそれに高尚なる趣味をもたせておかぬと、成人の後往々にして誤解から堕落するということになります。とにかく子供が天才肌の子供であるならば、それだけより多く、何かそのものに高尚な仕事、即ち娯楽を授けておかぬとその子供の成長の後が危険であります。
 何故ならば、天才というものは鋭い頭脳を激しく使うから、永く頭脳を緊張してはおられない。だから毎日一定の義務の遂行に、一心不乱に頭脳を緊張して居たら、その後は気楽に、娯楽的に少し他のことをして楽しみながら心身を修養する必要があります。また必要がなくとも、天才ゆえ普通の人が五時間かかってする仕事も、その人は二時間位で仕上げて仕舞います。それで三時間という余裕が出来て参ります。これを如何にして使うかということが大きな問題です。
この三時間を善用することを、世の母親たるものが教えておかぬと、その者は人の迷惑も察せず、他人に対して自分勝手な振る舞いをすることになります。」(同書147ページ)
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 鳩山春子の天才と娯楽についての考えは、夫が「天才肌」であり、激しい仕事の合間には娯楽を楽しむタイプだったことに感化されたものである。この夫・鳩山和夫は、文部省第一期留学生(コロンビア大学法学士、イエール大学法学博士)であり、日本初の法学博士であり、東京大学法学部で教鞭をとり(後、教授)、早稲田大学の総長にもなり、日本初の弁護士事務所を開設し後に衆議院議員議長にもなった人物である。そしておそらく、自身の二人の子供も父親に似た「天才肌」であったのだろう。長男は鳩山一郎、初代自民党総裁で日本国とソビエト社会主義共和国連邦との二国間の国交回復を成し遂げた内閣総理大臣であり、次男は鳩山秀夫、東京大学法学部教授で一時代の通説を築いた民法学者である。

 彼女が子供に与えた娯楽は具体的には「碁を打つこと、将棋を指すこと、撞球(ビリヤード)」などであったらしく、他にも「あらゆる種類の善良にして心身の練習になる娯楽は、暇のある限り練習」していたという。「それで今日に至り、子供がどれ程それを善用しているか分かりません。妙なもので、人は遊ぶことでも余り何も出来ませんと、馬鹿みた様に他の目に映るものであります。一寸遊が出来ても、その人が怜悧に見えるものです。それも高尚なる娯楽は、幼い時分から練習しておけば、他の知力の増進と共に自然に上手になれるのでありますから、幼児より練習しておく方がよろしいのであります。斯くいろいろの遊をおぼえさせておけば、成人した後も下品な遊に没頭しなくなると思います。」(同書148ページ)

 鳩山家が人材を輩出した基礎には、母親・春子の様々な教育的配慮があったのである。それにしても、「高尚な娯楽」を幼い頃から楽しんで覚えておけば、「下品な遊」に没頭しなくなる、というのは、体験に基づいているらしくもあり、天才肌の子供を育てている方の参考になるかもしれない(^^)尤も、特別な才能のある子供に限らず、娯楽と情報過多の現代であればこそ、こうした親の配慮は必要だとも思える。

読んだ本:『鳩山春子―我が自叙伝』(日本図書センター、1997)

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