中国・中華民国時代、作家と漫画家がつくった教科書『開明国語課本』2008年09月16日

中華民国『開明国語課本』第11-12課
 小学初級学生用『開明国語課本』(上海 開明書店、民国21年・1932年初版)は、中華民国時代に40余版を重ねたロングセラーで、中国現代文学の著名作家・葉紹鈞(=葉聖陶)と、現代中国の代表的な美術家で「漫画の鼻祖」と称される漫画家・豊子愷、いわば大作家と大漫画家の協力によって誕生した教科書である。文章は全て葉紹鈞の創作、或いは再創作であり、字(一部活字も)と挿絵は豊子愷の手によるものである。

 この教科書の特徴は、なんといっても、読んで、見て、面白いところにある。とくに初学の子供向けの文字が少ない部分は、言葉がリズミカルで、絵が存分に生かされていて楽しい。日本語に訳してしまうと、中国語のリズムを届けられないのが残念だが…伝わるだろうか…例えばこんな感じである。

第8課 先生は言いました。「子ども達(原文:小朋友)は座りなさい、みんなで本を読みます」子ども達はみんな座って本を読みます。
第9課 牛は多く、羊は少ない。牛は大きく、羊は小さい。
第10課 三頭の牛が草を食べている。一頭の羊も草を食べている。一頭の羊は草を食べずに、花を見ている。
第11課 みんなで牛を描こう。まず牛の頭を描いて、それから牛の身体を描いて、それから牛の脚を描く。
第12課 みんなで牛の字を書こう、一、二、三、四。みんなで羊の字を書こう、一、二、三、四、五、六。

 第8~12課はそれぞれ独立しつつも、関連していて、授業の様子を絶妙に描いている。第9課に牛が三頭、第10課に羊が二頭描かれるが、一頭は草を食べずに花を見ているのもユーモラスだ。そして第11課で牛の絵の描き方を教え、第12課で一,二,三,四、と牛と羊の字を書かせる、このセンスが面白い。こんな感じで、子ども達の学校生活、日常生活に関連する様々な場面も文章と絵によって生き生きと表現され、いまの私たちから見ても、中国の当時の教室の様子、人々の服装や生活、情景が分かり、親しみやすい。ちなみに、豊子愷は毛筆による文学的な漫画で知られるが、これは日本遊学中に画家・竹久夢二の草画にヒントを見出し生み出されたものだという。

参考:上海図書館蔵拂塵‧老課本『小学初級学生用 開明国語課本』上冊(上海科学技術文献出版社)。影印本。版は不明。原本は8冊だが、この本は上下冊にまとめられている。下冊に、葉紹鈞(=葉聖陶)の子息・葉至善氏と豊子愷の息女・豊一吟氏が随感を寄せている。

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